人類進化の謎を解き明かす
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出版社
インターシフト

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出版日
2016年06月30日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

私たち人類は、どこから来た何者なのか。私たちとサルとは何が違うのか。こうした問いに答えるのは従来考古学の分野、つまり「骨と石」に頼る学問であった。しかし本書では認知的側面と社会的側面からアプローチしている。ヒトとサルを分ける最も大きな違いは、二足歩行であるとか、道具の使用などといったことよりも、認知的、社会的な面にあるのだ。

ヒト特有の文化的側面は2つある。宗教と物語だ。これら2つの活動には言語が欠かせない。このどちらも日常世界とは異なる別世界の存在を想像する、高度な認知能力を必要とする。こうした文化活動を支えるのは私たちの大きな脳である。この大きな脳はより多くの栄養を必要とし、より多くの食べ物が必要になった。食べ物探しにより多くの時間を割かなければならなくなったが、多くの食べ物を探すためには大きな共同体が必要になり、共同体を維持するためには社会的な絆を作る時間も必要になる。類人猿は大きな脳を維持するための食糧の確保と、それを可能にする時間のやりくりという2つの大きな問題に直面した。

人類はいかにしてこの問題を解決し、現生人類となったのか。本書では「時間収支モデル」と「社会脳仮説」という2つのツールを使ってこの問題について考えている。類人猿、そして人類の進化は、複雑な認知を可能にしている大きな脳が、時間との戦いの中で生まれてきた試行錯誤の歴史なのである。

ライター画像
池田明季哉

著者

ロビン・ダンバー
オックスフォード大学の進化心理学教授。英国学士院の特別会員として、「ルーシーから言語へ」プロジェクトの共同ディレクターも務めていた。ダンバー数や社会脳仮説の提唱者として知られる。邦訳書は『友達の数は何人?』(インターシフト)、『ことばの起源』『科学がきらわれる理由』(青土社)。

本書の要点

  • 要点
    1
    サルとヒトとの違いは認知能力の違いにある。より高い認知能力を持つことにより類人猿は人類となった。
  • 要点
    2
    霊長類は集団で暮らすことで外敵から身を守り、団結し他者を守ることで社会性は深まった。しかし複雑になった共同体の維持にも時間を割かなければならなくなった。
  • 要点
    3
    気のおけない仲間を維持できる上限は、ほぼ150人であり、新石器時代の村落から現代のソーシャル・ネットワークに至るまで当てはまることが実証されている。
  • 要点
    4
    人類は火を使うことにより、活動時間を延長し、摂食の時間と共同体維持の時間の確保に成功した。

要約

人類とはなにか

人類と類人猿の違い
RomoloTavani/iStock/Thinkstock

類人猿と現在の私たち人類の本質的な違いとはなんだろう。直立二足歩行時の姿勢や道具を作りそれを器用に操ることだろうか。確かに道具の製作・使用のような行動パターンは、私たちと類人猿を分ける要素のひとつではある。しかし、これらの行動はあまり重要ではない。例えばカラスでさえ道具を作って使うが、彼らの脳はチンパンジーの数分の一に過ぎない。

著者は本質的な違いは「認知」にあり、私たちが「頭の中で」行えることにある、と定義する。この「認知」のおかげで人類は文学や芸術を生み出す高等文化を作り上げたのである。

「宗教」と「物語」

人類特有の文化的な側面は2つある。それは宗教と物語であり、これら2つの側面は人類にしか見られないものである。そして宗教と物語の活動と実践には言語は欠かせないものであり、それを可能にする精巧な言語を持つのは人類だけである。

宗教と物語、どちらも日常生活の世界と異なる別世界の存在を想像しなければ成り立たない。こうした特殊な認知行動は進化の副産物ではなく、人類の進化において大きな役割を果たす能力である。こうした文化活動を支えるのは私たちのもつ、大きな脳であり、私たちと他の大型類人猿を分けるものは、脳であるといえる。

霊長類の社会の絆

共同体の利点とコスト

霊長類は社会的な生き物であり、長い期間にわたって安定した群れを形成する。霊長類が集団で暮らす主な理由は、捕食者に対する防御のためである。森を抜けて木々が少ない開けた土地で暮らすと、捕食者に捕らえられる危険が増すことになる。このリスクを軽減するために、いざというときに団結し、他者を助けられるようにする必要がある。そのために共同体の規模が大きくなり、社会関係を保つために相互のつながりが深まっていくのである。

しかしそこにはコストが発生する。共同体のすべてのメンバーに食べ物を行きわたらせなければならない。そのためには多くの食糧が必要になり、それを探すために多くの時間を割かなければならなくなる。また、メスに負担が発生する。集団生活から生じるストレスはメスの月経周期にかかわる内分泌に影響を与え、不妊にいたるのだ。メスはより小さな共同体で生活することを望み、共同体のサイズの増加に歯止めをかける要因となる。共同体を大きくするためには、こういったストレスを解消しなければならない。

共同体の維持のための毛づくろい
matremors/iStock/Thinkstock

サルや類人猿が共同体を維持するためのストレス解消法として、「毛づくろい」が重要な役割を果たすことがわかっている。「毛づくろい」をすると脳内でエンドルフィンが分泌される。エンドルフィンの放出は穏やかな脳内麻薬作用による高揚、軽度の鎮痛効果、快感として記憶される。このことは人類を含む類人猿において強い愛着を形成する過程に深く関係していると考えられる。

共同体の維持には「毛づくろい」が重要であり、共同体の規模が大きくなると「毛づくろい」に費やされる時間も増える。しかし、これは大きな共同体では多くの相手に「毛づくろい」をするわけではなく、むしろ共同体が大きくなるにしたがって「毛づくろい」をする相手の数は減る。これは共同体の規模が大きくなるにしたがってストレスが増し、より緊密な相手が必要になるからである。

【必読ポイント!】社会脳仮説と時間収支モデル

行動の複雑さと脳の大きさの関係

社会脳仮説とは、簡単に言うと脳と社会の規模・複雑さが相関関係にあるというものである。つまり、脳の大きさから社会の規模が分かるというものである。

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要約公開日 2016.09.19
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