ポジティブ・コーチングの教科書

成長を約束するツールとストラテジー
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おすすめポイント

ポジティブであることは、仕事や家庭にどのように役立つのだろうか。ポジティブな要素を引き出すためのツールやスキルとは、どのようなものだろうか。本書は、現在広く使われている「人生満足尺度(SWLS)」の開発者エド・ディーナーの息子にして、ポジティブ心理学者であるロバート・ビスワス=ディーナーが、多彩な事例やエクササイズ、テストを交えながら、ポジティブ心理学がコーチングに与える効能について語りつくす一冊だ。ポジティブ心理学の知見に基づいたポジティブ・コーチングの決定版である。

著者は本書の中で、「ポジティブ心理学は科学である」と何度も述べている。幸福や希望といったポジティブ感情が、人にどのような効果をもたらすのかが、科学的手法を用いた研究結果とともに明らかにされており、ポジティブ心理学が、れっきとした学問なのだという自負が垣間見える。そして、ポジティブ心理学の知見やアセスメントを、コーチングの現場でどう活かせばいいのかについて、著者は非常にわかりやすく解説している。

ポジティブ・コーチングの使い道は、実に多彩だ。効果的な質問の投げかけによって部下や同僚が持つ強みを引き出したり、採用面接で受験者の興味分野を探り出したりすることができるだろう。もちろん、自分自身の強みや興味も再確認できる。本書から、実践に活かせるメソッドを探り出し、より満足度の高い人生を送るために役立ててほしい。

ライター画像
下良果林

著者

ロバート・ビスワス=ディーナー
ポジティブ心理学者。学術研究を続けながら、各国の幅広い知的プロフェッショナルを対象にしたコーチングや企業向けの心理学研修を実施してきた。ケニアやイスラエル、グリーンランド辺境など、普通の心理学者が研究対象にしないような極限の地域に暮らす人たちを対象に研究を続けてきており「心理学界のインディ・ジョーンズ」という異名を持つ。著書に『「勇気」の科学』(大和書房)『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』(草思社)ほか多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    強みは、最大の成功を生み、湧き出るエネルギーと幸福感を人々にもたらす。コーチには、クライアントの強みを見出し、特定する能力が求められている。
  • 要点
    2
    職場における「面白さ」は、従業員の生産性や創造性の向上に効果的である。ただし、組織内で信頼関係を築くことが前提となる。
  • 要点
    3
    公式のアセスメントによって、クライアントの「興味」を測ることは、その人の強みをよりよく理解し、活かすうえで重要だ。強みと興味は互いに影響し合うからである。

要約

ポジティブ・コーチングとは何か

ポジティブ心理学がコーチングにもたらすもの
anyaberkut/iStock/Thinkstock

ポジティブ心理学は人間の「よい状態」について研究する学問である。具体的には、希望や幸福、強み、レジリエンス、勇気といったテーマを扱う。

ポジティブ心理学の概略は以下の通りだ。(1)人がうまくいっている状態や、最高の状態にあるときに注目し、個人やグループが繁栄するよう支援する。(2)ネガティブな感情を無視せずに、失敗や問題、その他の不快感もみな、人生の重要な一部だと考える。(3)ポジティブ心理学は、心理に関する実証や計測、テストなどを重んじる科学である。同時に応用科学でもあり、その研究結果は学校や企業、行政などの個人的・社会的生活をよりよくするためのものである。(4)ポジティブ心理学から生まれた現実的な介入の方法は、概してポジティブなものであり、マイナスの状態を正常に戻すというものではなく、現状から「さらによい状態」にすることに注目する。

ポジティブ心理学は、コーチングの専門家たちのレベルや実践のツールを向上させることが期待されている。例えば、シカゴ大学の研究者フレッド・ブライアントは、思い出の品を使って組織のリーダー、チームなどにポジティブな回想をしてもらい、家庭や職場における意味や幸福の追求をしてもらうという研究をおこなった。これは、将来のイメージを描く「ビジョニング」というコーチングのテクニックを用いて、過去の思い出に注目するというものだ。ポジティブ心理学は、コーチが従来の方法に追加して使うことができる科学的ツールを生み出している。また、強みや楽観性、人生に対する満足感などを測るための、信頼性が実証された新しいアセスメント方法をコーチングの世界にもたらしたことも、ポジティブ心理学の功績の一つだといえる。

【必読ポイント!】 成長を支えるコーチング

強みを活かす

強みは、最大の成功を生み、人を大きく成長させ、湧き出るエネルギーと幸福感を人々にもたらす。マネジメントの父、ピーター・ドラッカーは「結果を出すためには、すべての強みを総動員しなければならない」と述べている。イギリスの応用ポジティブ心理学センター社(CAPP)では、強みを「人にもともと備わっている思考、感情、行動のパターンで、本物であり、エネルギーを生じさせ、最高のパフォーマンスを導くもの」と捉えている。重要なことは、その強みが本物であるかを見極めることである。

コーチングとは、クライアントが力を最大限発揮できるように手助けすることだ。よって、クライアントの持つ本物の強みを見出し、それを伸ばすように後押しする能力が求められる。

強みのボキャブラリーを増やす
Highwaystarz-Photography/iStock/Thinkstock

クライアントが持つ多彩な強みを発見するためには、強みを表すボキャブラリーを増やしておくことが望ましい。この重要性を著者が悟ったのは、卒業間近の優秀な医学生をコーチしていたときにさかのぼる。その医学生は、論文などのいくつもの重要な締め切りを抱えているにもかかわらず、やるべきことを先送りにして時間を無為に過ごしたことに苛立っていた。そして、「いつもこんな調子」だという。著者ができあがった仕事の質について尋ねたところ、医学生は「上質である」と回答した。いつも締め切りギリギリであるにもかかわらず、だ。

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要約公開日 2016.10.25
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