ポジティブ心理学は人間の「よい状態」について研究する学問である。具体的には、希望や幸福、強み、レジリエンス、勇気といったテーマを扱う。
ポジティブ心理学の概略は以下の通りだ。(1)人がうまくいっている状態や、最高の状態にあるときに注目し、個人やグループが繁栄するよう支援する。(2)ネガティブな感情を無視せずに、失敗や問題、その他の不快感もみな、人生の重要な一部だと考える。(3)ポジティブ心理学は、心理に関する実証や計測、テストなどを重んじる科学である。同時に応用科学でもあり、その研究結果は学校や企業、行政などの個人的・社会的生活をよりよくするためのものである。(4)ポジティブ心理学から生まれた現実的な介入の方法は、概してポジティブなものであり、マイナスの状態を正常に戻すというものではなく、現状から「さらによい状態」にすることに注目する。
ポジティブ心理学は、コーチングの専門家たちのレベルや実践のツールを向上させることが期待されている。例えば、シカゴ大学の研究者フレッド・ブライアントは、思い出の品を使って組織のリーダー、チームなどにポジティブな回想をしてもらい、家庭や職場における意味や幸福の追求をしてもらうという研究をおこなった。これは、将来のイメージを描く「ビジョニング」というコーチングのテクニックを用いて、過去の思い出に注目するというものだ。ポジティブ心理学は、コーチが従来の方法に追加して使うことができる科学的ツールを生み出している。また、強みや楽観性、人生に対する満足感などを測るための、信頼性が実証された新しいアセスメント方法をコーチングの世界にもたらしたことも、ポジティブ心理学の功績の一つだといえる。
強みは、最大の成功を生み、人を大きく成長させ、湧き出るエネルギーと幸福感を人々にもたらす。マネジメントの父、ピーター・ドラッカーは「結果を出すためには、すべての強みを総動員しなければならない」と述べている。イギリスの応用ポジティブ心理学センター社(CAPP)では、強みを「人にもともと備わっている思考、感情、行動のパターンで、本物であり、エネルギーを生じさせ、最高のパフォーマンスを導くもの」と捉えている。重要なことは、その強みが本物であるかを見極めることである。
コーチングとは、クライアントが力を最大限発揮できるように手助けすることだ。よって、クライアントの持つ本物の強みを見出し、それを伸ばすように後押しする能力が求められる。
クライアントが持つ多彩な強みを発見するためには、強みを表すボキャブラリーを増やしておくことが望ましい。この重要性を著者が悟ったのは、卒業間近の優秀な医学生をコーチしていたときにさかのぼる。その医学生は、論文などのいくつもの重要な締め切りを抱えているにもかかわらず、やるべきことを先送りにして時間を無為に過ごしたことに苛立っていた。そして、「いつもこんな調子」だという。著者ができあがった仕事の質について尋ねたところ、医学生は「上質である」と回答した。いつも締め切りギリギリであるにもかかわらず、だ。
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