君主がある地域を征服した際に、心がけるべき点を述べていく。獲得した地域の人々が、自由な制度の下での生活に慣れ親しんでおり、すでにある法にしたがって統治されている場合、その地域を治めるには、(1)それらをすべて破壊する、(2)支配者自らがその地に赴いて居住する、(3)その地域の法に従った統治を認めつつ税を徴収する、という3つの方法がある。このうち、最も簡単なのは3番目の方法であるが、安全な方法という意味では、1番目の破壊を推奨したい。というのも、自由な制度に慣れ親しんだ都市は、破壊しないかぎり、新しい君主を破滅させてしまうからである。
都市の人々は、自由という名目や昔の制度を口実にして、常に反乱を企てているものである。これは、どんな政策をとろうとも、どんなに恩恵を施したとしても同じである。その都市の住民を分割して散り散りにさせないかぎり、なにか変事があればただちに以前の統治様式に戻そうという動きが出てくるのだ。
フィレンツェに従属して100年も経っていたにもかかわらず、ピサが反逆したのはその好例であろう。共和国は生命力に満ちあふれており、君主に対する憎悪の念も強く、復讐欲も強い。彼らは昔の自由の記憶を決して捨てない。したがって、最も安全な方法は共和国を破壊することである。それがむずかしければ、君主がそこに直接住み、指揮をとらなければならない。
自らの実力によって君主になった者にとって、権力を維持することは比較的容易だが、権力を獲得する段階での苦労は大きい。というのも、自らの力で権力を築きあげるためには、新しい制度や政治様式を導入しなければならないが、自ら先頭に立って、新しい制度を導入しようとするほどむずかしいことはないからである。
新しい制度を導入しようとすると、旧制度で利益を得ていた人々はかならず敵にまわる。おまけに、新制度で利益を得ることになると思われる人々は、味方としては頼りない。彼らが旧来の権力を握っている人々を恐れているからだ。
武装した指導者が成功し、武器なき指導者が破滅するのはそういった理由からである。人間は生来、移り変わるものである。だからこそ、力によって人々の心を繋ぎとめておくようにしなければならない。
幸運に恵まれて君主になった者は、君主になるのに苦労しなかった反面、権力を維持するうえで大変な困難に遭遇することになる。これは財力によって君主の地位についた人々も同様である。
しかし、幸運によって君主になった者でも、素晴らしい君主になれる場合もある。その代表例がチェーザレ・ボルジアだ。ボルジアは父の幸運に恵まれたことで支配権を獲得し、父の不運とともにそれを失った。しかしボルジアはその後、自分にできるありとあらゆる方策をとった。すなわち、敵によっておびやかされないこと、味方を獲得すること、力や詐術を駆使して勝利すること、民衆に愛されるとともに恐れられること、兵士に慕われるとともに畏敬されること、自らを攻撃しうる者を絶滅させること、新しい制度によって旧制度を改めること、峻厳であるとともに親切であること、度量が大きいこと、忠実でない軍隊を解体し新しい軍隊を組織すること、他の王や君主との友好関係を築くこと、これらを徹底したのである。
同胞市民を殺害したり、友人を裏切ったりするといった手段で手に入れた権力は、長続きしないものだ。とはいえ、残酷な手段で権力を得たにもかかわらず、長い間安全な生活を送ることができている人々もいる。彼らは残酷さの使い方が「上手い」のである。
彼らが残酷さを発揮するのは、自らの地位を確立しようとする時だけだ。そしてその後は、民衆の利益になるような行動を心がけている。一方、最初は残酷な行為をあまりしなかったのに、時とともにその数を増やすような君主は、すぐに滅亡することになるだろう。
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