現代の私たちの生活スタイルは、脳の活性化という意味ではあまりいいものだとは言えない。乗り物やエレベーター、エスカレーターを使った移動にくわえ、職場でも家でも座り姿勢でパソコンやスマートフォンに向かう毎日。このように体を使わずに過ごしていると、脳に刺激がいかず、少しずつ退化していってしまう。
脳を活性化させるためには、運動は必要不可欠だ。なかでも、有酸素運動には脳の老化を遅らせるはたらきや、記憶力・集中力を高めるはたらきがあることが近年の研究からわかった。
一方、脳の活性化というと、いわゆる「脳トレ」といったゲームやパズルを思い浮かべる人も多いかもしれない。だが、これらに取り組んでも単純にそのゲームの技能が高まるだけで、脳への刺激になるとは言いがたい。
人は体を動かすと、脳が刺激されてそのはたらきも活性化される。特に、走ることで記憶を司る「海馬」と、集中力や思考力、感情といった重要な司令を出す「前頭葉」が活性化する。これらはまさに、仕事のパフォーマンスを上げるために直結する重要な能力である。
走ることで脳の刺激となる理由は、筋肉を動かすことで血行がよくなり、多くの酸素が脳に運ばれ、脳細胞が増えるからだ。足には多くの筋肉があるため、「走る」ことが脳の活性化に特に有効だという。実際、有酸素運動を続けたことで海馬の容量が大きくなったという研究や、有酸素運動が脳のなかで新しい神経細胞を生み出すという研究もある。
さらに、走ることはストレスへの抵抗力も生みだす。これは、走ると「セロトニン」というホルモンが分泌されてポジティブな気分になったり、「ガンマアミノ酸(GABA)」が分泌されることで、不安感が解消されたりするためだ。適度な運動を日常的に行うことで、うつ症状が改善されたという研究報告もある。
走ることで脳を活性化させたいと思っても、適当なスピードで走っていたら大きな効果は得られない。ポイントは運動強度、つまり「走っているときに体にどれくらいの負荷がかかっているか」ということにある。
運動と脳に関する研究結果から考察すると、「運動強度60~80%のランニングを1日20~30分×週3回×3か月」行うのが、脳に適度な刺激を与える走りかたの基準であると言える。運動強度や活動力を記録・測定できるツールを活用しながら、自分にとって最適なペースを見出してみてほしい。
走ることで脳のはたらきを活性化させたいのであれば、基本となる運動強度を守ること以外にも、もう一工夫加えていきたい。
たとえば、新しいルートを見つけたり、道の途中にある建物を覚えたりしながら、自分のランニングルートマップを作ると、記憶力の向上に役立つ。また、走りながらすれ違う人の顔の特徴を観察し覚えるというトレーニングも効果的だろう。体を動かすと記憶力が上がるため、勉強は走ったあとにするのがお薦めだ。
集中力を鍛えたいのであれば、走りながらひとりじゃんけんをするなど、2つのことを同時に行う「デュアルタスク・トレーニング」を行なうといい。そうすれば、前頭葉が活性化される。このトレーニングは、ランニングにかぎらず、ウォーキングや階段昇降と組み合わせやすいので、日常生活にも取り入れやすいだろう。
一時的に発想力を高める走り方もある。
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