恋人からメールの返信がこない。会社の面接で落ちた。こうした拒絶体験をこじらせると、心身に大きなダメージを及ぼすことになる。文明のない時代、仲間に拒絶されることは死を意味していた。仲間の助けなしには、食べ物を入手したり危険から身を守ったりすることができなかったためだ。だから少しでも仲間から排除されそうな経験をすると、私たちの脳は危険を感じて警告を発する。それがやがて激しい苦痛となる。実際、誰かに拒絶されると、脳内では肉体的苦痛を受けたときと同じ部分が活性化するという。
拒絶体験による症状を悪化させないためには、次の4つの方法を試すとよい。
(1)「どうせ自分なんか」という自己否定を言い負かす。例えば、好きな人に振られた場合なら「自分に魅力がないのではなく、たまたま相手の好みに一致しなかっただけ」と考える。
(2)自分の長所を思い出す。「なぜそれが大事か」「そのおかげでどんな良いことがあったか」を書き出して、自信を注入する。
(3)つながりの感覚を取り戻す。例えば、共通点のある仲間を探したり、親しい人を思い出すアイテムを用意したりするのも、自信喪失から回復するのに効果的だ。
(4)痛みへの感度を下げる。例えばテレアポの仕事をしていると、最初は電話をいきなり切られるたびに傷つくが、そのうち心の切り替えが早くなっていく。
このように、苦手な状況に何度もふれるうちに心が慣れて苦痛が軽減する。
デイヴィッドは遺伝病がもたらす容姿への影響によって周囲から拒絶され、傷つきながら生きてきた。大学入学後も周囲から無視され続けてきたが、2週間経ったころ自分と同様ヤンキースファンと思われる数人が、教室に早く来ていることに気づいた。ヤンキースがプレーオフ初戦で勝利をおさめ、興奮を抑えきれなかったデイヴィッドは、思い切って彼らに声をかけた。彼らは「ヤンキースのワールドシリーズ制覇は確実だ」というデイヴィッドの意見に同意し、ハイタッチを求めてきた。仲間ができたのだ。こうして自信を身につけることで、デイヴィッドは拒絶の痛みを乗り越えた。
孤独を感じると寂しさや満たされない気持ちを感じ、うつ病や不眠などの諸症状が出てくる。それだけでなく、高血圧や体重増加、コレステロール値の上昇、免疫力低下といった身体的な不調をももたらす。
セレナという女性は30キロ以上の減量に成功していたが、太っていたころに男性から見向きもされなかったことから、不安と懐疑心を膨らませていた。そのため、せっかくデートにこぎつけても話が盛り上がらず、相手は彼女と連絡をとらなくなってしまう。その結果、セレナは「男性は外見にしか興味がないのだ」と思い込む、という悪循環に陥っていた。
そんなセレナがある男性と偶然再会したときのことだ。以前に一度だけセレナとデートしたことがある彼は、一緒にいた友人に「最初のデートで彼女にふられた」と打ち明けた。セレナのよそよそしい態度が彼に「脈がない」と勘違いさせたのだ。
孤独のあまり人を疑ってかかると、相手にもそれが伝わり、周囲の人を遠ざけることになる。無自覚のうちに、自分自身の行動が状況を悪化させているのだ。友達や同僚、恋人、家族と接するときに、悪い印象を与えそうな行動を書き出し、次にその行動をとっていないかをチェックしてみよう。孤独の悪循環を防げるはずだ。
優秀な営業マンでバスケットボールが趣味だったグラントは、交通事故で両脚を失った。彼は癒えるのことのない痛みを抱え、「あのとき死ねばよかった」と思うようになっていた。「社交的でスポーツ好きなビジネスパーソン」という自己認識が、仕事もスポーツも奪われたことにより、根本から揺らいでしまったのだ。
喪失やトラウマを体験した人は、多かれ少なかれアイデンティティの再構築を必要とする。今の自分には何が大事で、何をすれば悲しみに埋もれた自分らしさを取り戻せるのか。それが見つからなければ、心の穴は埋められない。
つらい出来事から時が経ち、心が落ち着いてきたら、失われた自分を取り戻すエクササイズに取り組むとよい。
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