現在の経済は、パラダイムシフトを迎えようとしている。貨幣経済に、共有経済、物々交換経済、贈与経済などが高度に融合し、誰もが価値創造に挑戦できる「ハイブリッド型経済」へと進化を遂げつつあるのだ。それに伴い、次の7つのビジネスモデルが隆盛を極めると言われている。それらは、ロボットの継続課金モデル、モノのオープンプラットフォーム、物流再構築モデル、価値消費の最適化モデル、クラウドソーシング利用モデル、ボットソーシング利用モデル、そしてニューサプライチェーンである。今後、こうしたビジネスモデルの新たな波を捉えて、自社の事業に取り入れていくことがますます重要となる。
本書の第1章では、この文明的大転換を導く経済パラダイムの出現について、第2章では、上記の7つのビジネスモデルについて解説されている。
ビジネスの世界が転換期を迎え、それに伴いビジネス理論も再構築を迫られている。
例えばイノベーター理論がそうである。この理論は、商品・サービスは、イノベーター(革新者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティー(前期追随者)、レイトマジョリティー(後期追随者)、ラガード(遅滞者)という順に広がり、商品・サービスの成否を分けるのは、アーリーアダプターを取り込めるかどうかという内容である。しかし現在では、商品やサービスのライフサイクルが劇的に短くなっており、上記の5つの消費者層に徐々に浸透するというモデルでは、有効なマーケティングができなくなっている。
これは、ビックバンディスラプションという新しい現象が起きているためだ。トライアルユーザー(試しに使う人)が登場し、その後はバーストマジョリティー(爆発的に利用が浸透する層)が市場を席巻し、驚くべき速さでその波が沈静化し、商品が廃れていってしまう。例えば、体の動きでゲームの操作ができるKinectというデバイスは、最初の60日間で800万台が売れたと思ったら、半年未満で急速に売上が減少し、2年未満でその製品の寿命をほぼ終えてしまった。このように、ビッグバンディスラプションが起きた業界は、一気にその勢力図が塗り変えられてしまう。
今後は、スタートアップも、事業の成熟を迎え、新たなイノベーションに駆逐される前に、出口戦略も含めた素早い一手が求められる。その意味では、ビジネスはギャンブルのような様相を呈しているともいえる。
こうした動きに対抗するかのように急拡大しているのが、共有や贈与で成り立つ共有経済圏である。シェアリング(共有)というコンセプトは、世界中の多くの人にライフスタイルとして支持されるようになってきている。
これまで、ほしいものの情報を入手・検討し、店舗に移動して決断し、購入などの行動を起こすまでに様々な手間が生じていた。しかし、ソーシャルメディアの台頭で、特定のものをほしい人とあげたい人を瞬時にマッチングできる状態になれば、取引コストが低下し、売買や贈与の機会が増える。
取引コストがゼロに近づく理由は、次の5つである。
1つ目は、スマホやウェアラブルデバイスの普及により、情報にアクセスしやすくなったことである。2つ目は、アプリのデザインやユーザーインターフェイスがシンプルでわかりやすくなったことだ。3つ目は、GPSとリアルタイム通信の発達で、時間的・空間的な制約が減ったこと。4つ目は、モノのインターネットが広がり、ほしい情報の交換がしやすくなったこと。そして5つ目は、実名制SNSがインフラとして機能することで、取引の基盤となる信頼性が確認しやすくなったことである。
取引コストの低下により、タクシー業界に破壊的イノベーションを起こそうとしている例は、アメリカで急成長中のライドシェアサービスLyftだ。数分程度で相乗りできる車をマッチングしてくれるスマホアプリで、Facebook認証によってドライバーと乗客がそれぞれの身元と素顔を把握できるため、安全性や信頼の担保がなされている。こうしたサービスは、既存のタクシー会社の売上を奪い、業界の生態系自体に大きな変化をもたらしつつあるのだ。
中には、借りる・交換するという文化が広がれば、企業の利益が減り、日本経済にも良くないという主張がある。しかし、自社の貨幣的利益の最大化だけを追う資本主義はゆっくりと終焉しようとしている、と著者は説く。その理由の一つは、商品の売買や交換にかかる取引コストが限りなくゼロに近づいていくからである。
Lyftのような共有経済圏のプラットフォームにおいては、自社の利益に固執することができない。それは、サービスの立ち上げや提供にかかる「限界コスト」が小さい分、参入障壁が下がり、競合他社との激しい競争にさらされるからである。よって、今後は「個人」がより大きな恩恵を受けるようになる。それに伴い、共有経済圏で事業展開する企業は、常に公共性が問われ、社会を支えるインフラとしての認識を持つことを余儀なくされている。
産業革命以降、人々は生活のために家や車、会社を所有してきた。しかし、取引コストの低下により、あらゆる共有資産の中から、何かを利用するときだけ、その使用価値にアクセスするのが、21世紀型の消費スタイルとなりつつある。つまり、所有という概念が薄まり、価値消費は、モノやサービスにアクセスするという概念に収れんされていくのである。
今後のビジネスモデルの転換においては、企業の利益最大化ではなく、社会にどれだけ価値を提供できているかという影響力が重要な指標となる。本章では、新たな経済社会において、どのような事業・ビジネスモデルが影響力を増していくのかを具体的に示していく。
オープンソースやクラウドソーシング、クラウドファンディングの利用により、ハードウェアの設計から販売までのプロセスが短縮され、開発コストも劇的に下がっている。そして、ロボット産業ももはや資本集約的ではなくなっているという。これまでは、ロボット事業は、大きな資本を持つ大手エレクトロニクスメーカーの専売特許のように思われていた。しかし、バイオテクノロジーのような他の資本集約的な産業とバランスシートを比較したとき、ロボット産業は短期投資と現金が多く、長期負債が少ないため、身動きがとりやすくなっていることがわかる。ロボット産業の参入障壁は確実に下がっているのだ。
そこで有用なビジネスモデルは、ロボットの継続課金モデルである。
例えば、シリコンバレーのスタートアップ、Knightscopeが開発した警備ロボットは、単体で販売されるのではなく、月額4500ドルで利用できるようになっている。360度の高解像度ビデオカメラやレーダーなどが搭載されており、人々の挙動をリアルタイムに監視してくれる。24時間警備をしたい組織にとっては、人件費削減が可能となる。他にも、ロボットがペンで手書きの文字を書き、手紙を出してくれるBondというサービスも登場している。199ドルで手書きの文字を登録しておくと、スマホから文章を打ち込めば、1通2.99ドルで手紙が出せるという。
このように、継続課金モデルで働くロボットは、警備や清掃、接客、販売などの領域にも広がっていくだろう。
ロボットの導入で人の職が奪われていくと懸念する人もいる。しかしロボットは、機械でもできる仕事から人々を解放するためのツールである。ロボットはあくまで、人々の生活や仕事をフォローしてくれる存在なのだ。企業は自社の業務のうち、反復性のあるものを選び出し、その業務ができるロボットが開発されているのかを検索してみるとよいだろう。
物流業界にも変革の波が押し寄せている。サンフランシスコのベンチャー企業Shypは、梱包と配送のフローに楔を打ち込もうとしている。梱包・配送には、梱包材のストックを調達・補完し、配送センターに持ち込むといった手間がかかる。しかし、Shypのアプリをダウンロードし、配送したいものを撮影して、送り先の住所を指定すると、スタッフが最低5ドルで世界中に届けてくれるのだ。誰もが世界をマーケットとする時代に、大きなニーズのあるサービスだといえる。
日本ではドローンの規制問題が生じているが、世界では空の物流網を構築しようという動きが盛んになっている。薬をドローンで届ける「QuiQui」というサービスは、サンフランシスコ市内では15分以内に配送が可能だという。24時間対応可能なことにくわえ、配送費用は薬代にたった1ドル追加するだけなので、高齢者世帯や若い単身世帯を中心に重宝されることが期待される。こうしたドローンによる低価格での配送が進めば、ネット通販などに押されがちだった地元の小売店でも勝機が得られ、地元経済の活性化にもつながっていく。
「借りたほうがいいものは、遠慮なく借りる」という文化が広がり始めている。iPhoneアプリ「Peerby」は、日用工具やアウトドアグッズ、スポーツ用品などを30分で近所の人から借りることを可能にする。アプリ上で借りたいものを打ち込み、送信すると、その情報が近隣の人に配信され、貸し手はワンクリックでその要望に返答でき、貸し借りをスピーディーに行えるのが特徴だ。取引コストを削減し、誰もが瞬時に共同消費に参加できる社会を推し進めている。
共有経済の波はB to Bの世界にも及びつつある。例えば「Floow2」では、建築や農業、輸送、ヘルスケアを中心に2万5000以上の共有設備や製品・サービスが登録されており、登録者はこうした資産を必要な人に貸し出すことで、利益を上げることができる。企業の運用コストを削減できるだけでなく、環境にも優しいというメリットがある。
今後は、様々な共有サービスが浸透し、共有経済圏のプラットフォームを利用して働く人の数もますます増加していくだろう。
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