ビジネススクールで教えられる経営戦略論の教科書の内容は、この四半世紀近くほとんど変わっていない。また、教科書に登場する、ポーターの「ファイブ・フォース分析」のような基本ツールの大部分を、現在の経営学者はほぼ研究対象にしてないという。なぜビジネススクールでは、世界最先端の経営学が学べないのだろうか。
世界の経営学者たちは、知的好奇心を推進力とし、科学的な手法によって「ビジネスの真理」の探求をめざしている。また、経営学の世界で優れた研究と評価されるための基準は、厳密な理論展開と実証分析を求める「厳密性」と、「知的に新しいかどうか」が軸となっている。その結果、「実務で役立つかどうか」という軸にかけるウェイトは小さくなってしまう。おまけに、経営学の知見を実務に応用しやすいように、分析ツールに落とし込むことは、学術業績として認められていない。その結果、知見がビジネススクールの教科書に反映されづらい状況になっているのだ。
そこで本書は、ビジネススクールの授業でなかなか知り得ない、世界最先端の経営学の知見に読者がふれることを目的としている。
日本の多くのビジネスパーソンが自社の戦略に悩んでいる。しかし、戦略にはそれぞれ通用できる範囲があるため、他業種で成功した戦略をそのまま自社に応用してもうまくいかないという点は、あまり共有されていないのが現状だ。ここでは、「特定の業界・市場で企業がどんな戦い方をしていくか」という競争戦略を取り上げる。
競争戦略で代表的なのは、次の二つである。
一つ目は、ポーターが提唱する、自社が業界内でどんな製品・サービスを提供していくかを定める「ポジショニング戦略」に代表される「SCP戦略」である。
二つ目は、米ユタ大学のジェイ・バーニーが中心となって打ち立てた「リソース・ベースト・ビュー(RBV)」戦略である。優れた人材や他社がまねできない技術といった、独自の強みを磨くことで、競争優位を獲得するという考え方だ。
ここで大事なのは、SCP戦略もRBV戦略も適用範囲が限られているため、次に述べる三つの「競争の型」ごとに、適用できる戦略が異なるという点である。
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