21世紀の不平等

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21世紀の不平等
ジャンル
出版社
東洋経済新報社
出版日
2015年12月11日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書の著者であるアンソニー・B・アトキンソンは、『21世紀の資本』にてその名を轟かせたトマ・ピケティの師に当たる人物である。ピケティの著作と比較した場合、アトキンソンは不平等が増大してきた要因をより多面的に捉えており、様々な側面から提案を投げかけているところに特徴がある。また、ピケティの著作と同じく、本書には難解な数式はほとんど登場しない。そのため、巻末にある用語集を参照していくことで、経済に明るくない人でも読破することが十分可能な内容となっている。

本書は大きく分けて、1)不平等の定義および歴史的分析、2)不平等を是正するための具体的な諸提案、3)諸提案の実現性の検討、という3つの構成になっているが、このうち少なくともアトキンソンが提示する15の提案には目を通しておきたい。主にイギリスのことを念頭に書かれてはいるが、格差社会が叫ばれるようになって久しい日本にとっても、参考に値する提案を発見できるであろう。

1980年代の「不平等への転回」以降、不平等は拡大する一方である。しかし、アトキンソンの姿勢はその現実とは裏腹に、極めて前向きだ。それは政府に対する信頼というよりも、私たち一人ひとりが社会を動かす力を持っているという信念の表れであるといえる。不平等という問題の「当事者」である私たちにとって、基盤となる教養として一度は目を通しておきたい一冊だ。

著者

アンソニー・B・アトキンソン Anthony B. Atkinson
オックスフォード大学ナフィールドカレッジ元学長。現在、オックスフォード大学フェロー。所得分配論の第一人者であり、国際経済学会、欧州経済学会、計量経済学会、王立経済学会会長を歴任。所得と財産の分配の歴史的トレンド研究という新しい分野を切り開いた。論文・著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    不平等は是正されるべきものである。過去に不平等が減少した時期や地域を参考に、市場所得の不平等縮小と効果的な再分配を組み合わせることで、不平等の縮小を目指すことは可能である。
  • 要点
    2
    そのために必要なのは、1)市場所得への介入、2)累進課税制の導入、3)社会保障制度の充実である。
  • 要点
    3
    不平等と効率の間には絶対的な負の相関はない。不平等低減の手法を取り入れることで経済成長率の足を引っ張るとはいえない。
  • 要点
    4
    現在のグローバル化した世界の制約の中でも選択の余地はまだまだ残されている。
  • 要点
    5
    本書の提案を実施するための予算を確保することは現実的に可能である。また、提案を実行することで全体としての不平等や貧困の大幅な削減を実現できる。

要約

不平等について学ぶべきこと

そもそも不平等はなぜダメなのか?
Aeya/iStock/Thinkstock

本書の主題は、不平等の水準の引き下げをどのように実現するかである。完全な平等はありえないが、現状の過度な不平等は縮小されて然るべきだ。しかし、そもそもなぜこの不平等という問題に取り組む必要があるのだろうか? ここで問題視しているのは結果の不平等についてである。なぜなら現代民主社会において、機会の平等を軽視する人は少ないだろうし、スタート地点は平等であるべきだと考えられているからだ。一方で、結果の不平等については解決するべき問題として大きく取り上げられてこなかった。

このような態度が正しくない理由は3つある。1つは、失敗をしてしまった人を無視するということは多くの人の道徳観からは受け入れられないということである。たとえ事前に機会均等があったのだとしても、つまずいてしまった人々を見放すことは現実的ではない。第2に、競争によって得られる報酬の構造は経済社会的に決定されるということである。そのため、その妥当性や競争そのものの公正さについては検討すべきであり、ここには介入の余地が残されている。そして第3の理由は、結果の不平等は次世代の機会均等に直接影響を与えてしまうためである。家庭環境は結果に影響を及ぼすものであり、将来の機会の平等を重んじるのであれば、現在の結果の不平等について改善していく必要がある。

不平等が縮小する時、あるいは増大する時

不平等の縮小を考える上で、これまで残されてきたデータを参照することは非常に役に立つ。どの地域でどの時期に不平等が縮小していったのか、あるいは逆に不平等が増大していったのかを明らかにすることで、改善のための知見を得ることができるからである。

データから不平等が顕著に縮小した時期を見てみると、アメリカでは第2次世界大戦の終結前後、ヨーロッパ各国ではそれに加え、1970年代が該当する。この主な要因としては、社会保障制度による移転の拡大、賃金シェアの増大、個人資産集中の減少、政府介入と団体交渉による収入の散らばりの縮小が挙げられるであろう。不平等の縮小は、2000年代の中南米でも確認されているが、こちらも同様に市場所得の変化と再分配の拡大の組み合わせによって、政治体制に関係なく達成されている。

一方、ヨーロッパでは1980年代以降、不平等が加速してしまう流れが形成された。これをここでは「不平等への転回」と呼ぶ。その原因は、先に挙げた諸要因が逆転、または終わってしまったことに求められる。市場所得における不平等の増大に加え、社会保障制度が維持できなくなってきたことが、格差をさらに激しいものにさせてしまった。さらに、経済の「金融化」によって、総所得における賃金の割合が低下した。

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要約公開日 2016.04.19
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