電子部品産業の営業利益率は、キーエンス53%、ヒロセ電機26%、村田製作所21%となっており、高収益企業が目立つ。この高収益の秘訣は、「常に人と違うことをめざそうとする思想」のもとに、あえて自社の事業領域を制約・限定して、他社と競争することなく自社だけが生存する「ニッチ」を極めているということだ。
利益率は、その企業の技術力ではなく「力関係」で決まる。いくら不味いラーメンの店でも、ある地域に一店舗しかなければ消費者はその店を選ばざるを得ない。ハイテク産業でも同様に、いくら驚異的な技術を持つ企業があっても、同様の競合が10社も存在すれば利益を出すことは不可能に近いだろう。
そこで著者が提唱するのは、「いかに競争しないか」を考え、顧客に意識されることなく寡占状態をつくることである。具体的には、技術による寡占やコスト競争力による寡占、サービスによる寡占、ブランドによる寡占などの方法がある。このような観点から、他者(他社)と競争せず、自分だけの場所・生き方を見出すという良き寡占を、本書では「ニッチ」と呼ぶ。
サービス(事業モデル)でニッチを確立した好例は、業界平均を大幅に上回る利益率を上げている北陸の電源メーカー、コーセルだ。電源はあらゆる電気機器・電子機器に不可欠であるものの、製品の特性上、技術で差異化を図るのが難しく、価格競争に陥りやすい。
そこで同社は、「標準品のカタログ販売」の導入に踏み切った。一般的な電源メーカーは顧客であるメーカーの仕様に合わせて製品を開発しているが、実際のところ、顧客のほとんどは自社独自の仕様を求めているわけではない。標準品に特化すれば、常に在庫を持ち、短期間で発送できる。そのうえ、カタログ販売によって、顧客ごとに価格交渉する必要がなくなったために、定価での販売も可能となった。
このように、コーセルはサービスの既存の慣行を疑い、カタログ販売という新たな仕組みによって「ニッチ」をつくり出したのである。
日本企業は技術ニッチの追求は得意である。ある技術が、消費者の要求水準に達していない間、消費者は新技術に付加価値を認め、喜んで対価を払うため、技術ニッチは比較的築きやすい。
ところが、ひとたび技術が消費者のニーズを満たすと、
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