著者はまず、日本人の労働時間について、ファクト・データの確認を行なっている。
『データブック国際労働比較2016』からは、メディアで報じられているように、単に「日本人は働きすぎ」とはいえない現状が見えてくる。他国と比べて、日本の労働時間は長いが、アメリカやイタリアなどの労働時間も長い。日本の労働時間「だけ」が長いわけではないのだ。
また、日本における一人当たりの総労働時間は、1980年代から現在にかけて、労働基準法の改正などの影響を受け、徐々に減少している。ただし、総務省の「労働力調査」によれば労働時間の短い非正規雇用者の割合は増え続けており、そのことが一人当たりの総労働時間に影響を与えていることが推察される。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」を見ると、このことはさらに明確になる。パートタイム労働者の割合が増えている一方で、一般労働者の総実労働時間はほぼ横ばいだ。つまり、正規雇用者の労働時間は改善されていないのである。加えて、日本の労働時間を他国と比較したときに明確なのは、日本は長時間労働者の比率が高いことである。性別ではとくに男性、業種別では運輸業、郵便業、建設業、教育、学習支援業に長時間労働者が多い。
前出の、総務省の「労働力調査」による労働時間数と、企業調査に基づく厚生労働省の「毎月勤労統計調査」による労働時間数には、開きがある。この開差が、実際に働いた時間より少ない時間を申告する「サービス残業」だ。
サービス残業に関しては、労働者が認識していないサービス残業も存在する。たとえば、和風居酒屋などで働く人が和服に着替える時間をタイムカードに計上していないというケースがある。この行為は、使用者の指揮命令下におかれたものと評価できるので、労基法上の労働時間に当たると考えられる。ただ、その認識は普通の労働者に浸透しているとはいえない。こうしたことも、残業を考える上では考慮に入れておく必要がある。
著者は、厚生労働省の『平成28年版過労死等防止対策白書』と、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査を参照し、なぜ残業が発生するのか、企業側と労働者側の双方の回答を確認している。どちらの側にも、
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