中川政七商店はものづくりとブランドマネジメントを自ら行う事業会社として、さらに他のものづくり企業の再生コンサルティングを請け負う会社として、ものづくりを成功させるための方法論を蓄積してきた。
中川政七商店のものづくり企業再生の方法論の第一歩は、企業の現状を把握することから始まる。
まずは、複数期の決算書を読む。「損益計算書」から、売上高、売上原価、販売管理費、減価償却費、人件費、営業利益を、そして「賃借対照表」から、短期借入金、長期借入金を見る。この8項目を見ることで「いくら売っていて、かかった経費はいくらで、いくら儲かったのか。そして会社にいくらの借金があるのか」を知ることができる。
数字を読むときは、パーセンテージに置き換えて把握することが大切だ。たとえば、売上6.4億円で原価が3.4億円、販売管理費が2.8億円で2000万円だけ儲かっている決算書があるとする。売上を100%とすると原価率は53.1%、販売管理率43.8%、営業利益率3.1%である。こうすることで、利益構造がよくわかる。そして、複数期の決算書の売上や原価率の推移を見ることで、正しく現状認識をすることができ、原価率を回復させる、売り上げを回復させるなどの方向性を正しく選択できる。
その上で、現地視察とヒアリングを行う。工場、倉庫、事務所などを見たうえで、3C(自社、競合、顧客)と4P(製品、価格、流通、プロモーション)の項目ごとにヒアリングを行って現状を把握していく。自社を分析する際には王道のSWOT分析(強み、弱み、機会、脅威を整理する)フレームワークを活用すると良い。
現状を把握した後は、中期経営計画を策定する。ものづくりの会社としてどこを目指し、どうやっていくのか、3~5年後までの見通しを立てるのだ。この中期経営計画の策定なくしてブランドづくり、商品づくりをすることはできない。
中期経営計画では定性シートと定量シートの2種類を作成する。まず、定性シートでは市場などの「環境」、自分たちの「強み」、会社としてどうなりたいのかの「意思」を考慮して、会社の「志」を決める。さらに、「志」をより具体化するため、業界における「ポジション」、目標とする「ゴール」を設定する。
例えば中川政七商店の場合、日本の工芸衰退という「環境」、ブランドマネジメントができることと直営店という流通を持っていることという「強み」、自社と業界を生き残らせるという「意思」があった。そこから「日本の工芸を元気にする!」という「志」が導き出され、「工芸業界の星野リゾート」という「ポジション」と、「産地の一番星が各地にできて100年後に『工芸大国、日本』と言われること」という「ゴール」が決まった。
定量シートでは、売上を何でつくるのかという計画を立てる。決算書で見た売上や原価などについて目標金額を決め、損益分岐点を計算しておく。とにかく数字で表し、その数字をすべての戦術とリンクさせ、常々その数字に立ち返って確認をする。
2つのシートからなる中期経営計画は、何度も立ち戻るべき大切な指針だ。毎年見直していくことで、目標へ必ず近づいていける。
会社を正しく知り、経営オーダーとして新ブランドをつくると決まったら、その第一歩としてブランドの立ち位置や方向性を定めることになる。それが、ブランドの建て付けだ。著者は、中小企業向けとして、自分たちの想いを起点としてつくりたいものを考える手法をとっているという。
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