経営とデザインの幸せな関係

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経営とデザインの幸せな関係
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2016年11月08日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

日本全国各地には、それぞれの土地の伝統を引き継いだ工芸品がたくさんあるが、残念ながら工芸業界は厳しい状況にある。そこで、ものづくり企業はデザイナーと協業し、消費者のニーズを汲み取る商品開発をしようと試行錯誤してきた。しかしながら、多くは成功せず失敗に終わってしまったという。なぜ、失敗に終わってしまうのか?

その失敗の理由は、経営者に「クリエイティブリテラシー」がなく、デザイナーに「経営リテラシー」がなく、相互理解がないことにある、と語るのは著者の中川淳氏である。中川政七商店の社長である著者は、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンをもって、全国各地のものづくり企業を再生させるべくコンサルティングし、数多くの工芸品ブランドを立ち上げてきた。著者はそうした経験を重ねるうちに、経営者とデザイナーの両者がうまく協業できるようにする、ブランド立ち上げの方法論を編み出した。その方法論を太っ腹に公開したのが本書である。

本書は概念的な説明ではなく、中期経営計画策定、ブランドづくり、商品づくり、コミュニケーション設計、とフェーズを区切り、とるべきステップを具体的に紹介している。著者が立ち上げに関わった工芸品ブランドの事例を交えているので、非常にわかりやすい。ブランド立ち上げに関わる、さまざまな立場や部署の人たちが、自分の仕事に生かせる学びを得られるだろう。

著者

中川淳
1974年生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に株式会社中川政七商店に入社し、2008年に十三代社長に就任。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。初クライアントである長崎県波佐見町の陶磁器メーカー有限会社マルヒロでは、新ブランド「HASAMI」を立ち上げ空前の大ヒットとなる。2015年には、独自性のある戦略により高い収益性を維持している企業を表彰する「ポーター賞」を受賞。「カンブリア宮殿」などテレビ出演のほか、経営者・デザイナー向けのセミナーや講演歴も多数。著書に『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』『ブランドのはじめかた』『ブランドのそだてかた』(日経BP社)、『小さな会社の生きる道。』(CCCメディアハウス)。

本書の要点

  • 要点
    1
    ものづくり企業再生の第一歩は現状把握に取り組むことからはじまる。正しい現状把握を経て、中期経営計画を策定し、その上でブランドづくりや商品づくりに入る。
  • 要点
    2
    ブランドを組み立てる際、ブランドの「志」「ストーリー」「らしさ」「ブランドコンセプト」を書き出すとよい。すべての項目の整合性がとれるように、ぐるぐるとつなげながらよく考えることが大切だ。
  • 要点
    3
    コミュニケーション設計とは、顧客が正しいブランドイメージを持てるように、営業戦略、流通戦略、販売促進・PRを、個別的にではなく、総合的に考えることである。

要約

会社を診断する

ものづくりの成功は正しい現状把握から
asafta/iStock/Thinkstock

中川政七商店はものづくりとブランドマネジメントを自ら行う事業会社として、さらに他のものづくり企業の再生コンサルティングを請け負う会社として、ものづくりを成功させるための方法論を蓄積してきた。

中川政七商店のものづくり企業再生の方法論の第一歩は、企業の現状を把握することから始まる。

まずは、複数期の決算書を読む。「損益計算書」から、売上高、売上原価、販売管理費、減価償却費、人件費、営業利益を、そして「賃借対照表」から、短期借入金、長期借入金を見る。この8項目を見ることで「いくら売っていて、かかった経費はいくらで、いくら儲かったのか。そして会社にいくらの借金があるのか」を知ることができる。

数字を読むときは、パーセンテージに置き換えて把握することが大切だ。たとえば、売上6.4億円で原価が3.4億円、販売管理費が2.8億円で2000万円だけ儲かっている決算書があるとする。売上を100%とすると原価率は53.1%、販売管理率43.8%、営業利益率3.1%である。こうすることで、利益構造がよくわかる。そして、複数期の決算書の売上や原価率の推移を見ることで、正しく現状認識をすることができ、原価率を回復させる、売り上げを回復させるなどの方向性を正しく選択できる。

その上で、現地視察とヒアリングを行う。工場、倉庫、事務所などを見たうえで、3C(自社、競合、顧客)と4P(製品、価格、流通、プロモーション)の項目ごとにヒアリングを行って現状を把握していく。自社を分析する際には王道のSWOT分析(強み、弱み、機会、脅威を整理する)フレームワークを活用すると良い。

戦略としての中期経営計画

現状を把握した後は、中期経営計画を策定する。ものづくりの会社としてどこを目指し、どうやっていくのか、3~5年後までの見通しを立てるのだ。この中期経営計画の策定なくしてブランドづくり、商品づくりをすることはできない。

中期経営計画では定性シートと定量シートの2種類を作成する。まず、定性シートでは市場などの「環境」、自分たちの「強み」、会社としてどうなりたいのかの「意思」を考慮して、会社の「志」を決める。さらに、「志」をより具体化するため、業界における「ポジション」、目標とする「ゴール」を設定する。

例えば中川政七商店の場合、日本の工芸衰退という「環境」、ブランドマネジメントができることと直営店という流通を持っていることという「強み」、自社と業界を生き残らせるという「意思」があった。そこから「日本の工芸を元気にする!」という「志」が導き出され、「工芸業界の星野リゾート」という「ポジション」と、「産地の一番星が各地にできて100年後に『工芸大国、日本』と言われること」という「ゴール」が決まった。

定量シートでは、売上を何でつくるのかという計画を立てる。決算書で見た売上や原価などについて目標金額を決め、損益分岐点を計算しておく。とにかく数字で表し、その数字をすべての戦術とリンクさせ、常々その数字に立ち返って確認をする。

2つのシートからなる中期経営計画は、何度も立ち戻るべき大切な指針だ。毎年見直していくことで、目標へ必ず近づいていける。

【必読ポイント!】 ブランドをつくる

ブランドの建て付け
Oko_SwanOmurphy/iStock/Thinkstock

会社を正しく知り、経営オーダーとして新ブランドをつくると決まったら、その第一歩としてブランドの立ち位置や方向性を定めることになる。それが、ブランドの建て付けだ。著者は、中小企業向けとして、自分たちの想いを起点としてつくりたいものを考える手法をとっているという。

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要約公開日 2017.09.16
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