イスラエルは四国ほどの面積で、その半分は砂漠地帯となっている。さらには石油などの天然資源にもあまり恵まれず、4度の中東戦争や迫害を経験し、隣国との緊張関係が続く。こうした背景のもと、イスラエルは自国の産業を強化し、付加価値の高い産業を生み出す必要に迫られてきた。
国境を越えて持ち運べる「頭脳」への投資にも余念がない。イスラエルでは、高校卒業後に男性で3年、女性で2年の徴兵制がある。徴兵前に優秀な人材をスカウトするプロセスがあり、そこで選ばれた人材は、イスラエル参謀本部諜報局の情報収集を行う8200部隊などで、軍の最先端のノウハウを習得できる。この場が、起業に必要なプログラミングスキルやチームで動く重要性を学ぶ場にもなっている。また、兵役後の同窓ネットワークも強く、とりわけ8200部隊は部隊専用の起業を支援する組織までもっている。
このように、イスラエルには、イノベーション人材の輩出を促す仕組みが国家に根づいているのだ。
イスラエルには世界有数のスタートアップのエコシステムが存在する。スタートアップが生まれ、成長を遂げるには、起業家だけでなく、投資家や自治体、大学、大企業、メンターといった多様なプレーヤーが欠かせない。イスラエルでは、こうしたプレーヤー同士のかかわりが密であるため、イノベーション国家としての素地が整っているといえる。
では、300を越えるグローバル企業がイスラエルに進出するのはなぜか。最大の要因は、高スペックの若い人材を数多く確保できることだ。また新技術、発明の出所としての実績が多数あるため、研究、技術開発のアイデアが生まれやすい。
一方、グローバル企業の存在がイスラエルの人材にもたらすメリットは大きい。最前線の研究・開発にふれられるうえに、最初から世界展開を見据えて、グローバルな視野で物事を捉えられるようになるからだ。
イスラエルに起業家精神が根づいているからといって、すべてが成功するわけではない。著者の調査によると、過去10年でイスラエルのスタートアップの3社に2社は「失敗」し、企業活動を終えていた。ところが、失敗してもグローバル企業のR&D(研究・開発)に容易に戻ることができる。グローバル企業が、起業に失敗した人材を再雇用する受け皿にもなっているのだ。
イスラエルのスタートアップへの投資金額は2015年で5000億円を越え、一人当たりでは日本の30倍にあたる。しかも、2010年以降、海外からの資金が一気に拡大している。
これは、新しい投資対象となるスタートアップが増加し続けており、それらが次々にイグジット(株式売却などによる資金回収)を果たすためだ。毎年80~100社程度のスタートアップが買収され、起業から1~2年程度で買収されるケースもある。そのため、投資家にしっかりと投資資金が還流していく。各年の買収総額と投資金額を過去5年分比較すると、平均して買収額は2倍以上にのぼる。つまり数値上、全体として「イスラエルに投資すると儲かる」というわけだ。
イグジット金額の10数%は税金として国に納められる。
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