「破綻する日本企業には、類似点が多い」。これは企業再生に関わる者の間で、よく耳にする言葉である。それが事実なら、何がどう類似しているのか。2000年代以降、日本では「企業再生」「事業再生」という言葉が一般的になった。再生の対象の多くは、潜在的に収益力のある事業を営みながらも、債務超過に陥った企業である。しかし、収益力があっても破綻するのはなぜだろうか。
『V字回復の経営』などの著書で有名な三枝匡氏をはじめとする事業再生の専門家は、次の3つの共通点を指摘している。それは、経営者の力量やリテラシー不足、戦略性の低さ、内向き傾向で危機感が低い組織風土である。それは、日産自動車を再建したカルロス・ゴーン氏が指摘した内容にも類似する点が多い。
はたして破綻企業特有の性質を特定することは可能なのか。こうした問題意識から、著者はアカデミックの世界でも通用する正確性と客観性を担保しながら、企業の実態を分析していく。また、経営組織論には、「一つの企業のことしか知らない人間には、その企業の特徴を語れない」という常識がある。この常識に則って、他社との比較という相対的視点を有した専門家への詳細なインタビューを行った。
経営学には「組織の衰退」という言葉がある。その定義は、「組織のマイクロニッチへの適応不全およびそれに伴う組織内資源の減少」というものだ。マイクロニッチとは、「マイクロ」、すなわち個々の組織にとっての生態環境を意味する。これはビジネスの文脈では、「企業が事業環境に適応できず、売上げおよび利益の減少が一定期間継続すること」を指す。本書では、この意味で「衰退」という言葉を用いる。
分析対象とする企業は、通常の事業を継続する中で衰退から抜け出せなかったものの、同業他社は事業活動を継続できている企業である。これらを踏まえ、本書では次の2つの問いを設定し、解明に取り組んでいく。
1つ目は、衰退を認識しながら、そこから脱却できず破綻した日本企業の共通点は何か。衰退プロセスから脱却できなかった理由は何か。優良企業との差異はどこにあるのか、といった問いである。
そして2つ目は、破綻企業に見られる事象は、特に日本企業に生じやすい性質をもつのか。日本企業には、そのような事象が生じやすい「癖」があると考えるべきなのか、という問いだ。
衰退に関する研究は、1980年代から世界中で盛んに行われてきた。その先行研究から次の2つの理論が導き出されている。
1つは「脅威-硬直理論」である。衰退の原因を、経営陣の意思決定プロセスが事業環境の変化から受ける影響に求める理論だ。もう1つは「上位階層理論」といい、経営陣の価値観や考え方にも焦点を当てた理論である。
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