世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

経営における「アート」と「サイエンス」
未読
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?
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経営における「アート」と「サイエンス」
著者
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世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?
著者
出版社
出版日
2017年07月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

いま「エリート」が美術館のワークショップに参加したり、グローバル企業がアートスクールに幹部候補を送り込んだりすることが増えている。単に「教養」を身につけるためではない。そこには「美意識」を鍛えるという、きわめて実利的な理由があるという。

すさまじいスピードで変化している現代社会において、重要な意思決定を行なうエリートに求められるのが「美意識」だ。なぜなら「美意識」とは、不透明な社会を切り抜けるうえで明確な判断基準となってくれるからである。これが著者の主張だ。

アートや「美意識」と聞くと、いわゆる「クリエイティブ」な領域の話かと思われるかもしれない。しかし本書で語られる「美意識」はその領域だけにとどまらず、善悪の判断も含まれている。

長く「論理」や「理性」に重きを置いてきた日本企業はいま、海外企業に押されて苦境の中にある。大企業のコンプライアンス違反、新興ネットベンチャー企業の不祥事も記憶に新しい。こうした問題の根本には、数値目標や言語化して説明できる「サイエンス」だけを追求してきたことがあるのではないか。こうした苦境を乗り越えるヒントとなるのが、「直感」や「感性」の領域、すなわち「美意識」というわけである。

現代社会のあり方に疑問をもっている人、企業経営で行きづまっている人、あるいは勉強ばかりで疲れてしまった受験生に、とりわけおすすめしたい一冊だ。本書を読めば、これから何を大事にするべきかが見えてくるだろう。

ライター画像
池田明季哉

著者

山口 周(やまぐち しゅう)
1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。著書に『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)『天職は寝て待て』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)など。神奈川県葉山町に在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    「サイエンス」で導き出された答えは万人が行き着くものであり、差別化ができない。一方で「アート」で導き出されるストーリーや世界観はコピーされないものである。
  • 要点
    2
    世界の市場は「自己実現的消費」へとシフトしている。人は機能ではなく、自己実現欲求を求めている。そうした環境では「美意識」が大きな役割を果たす。
  • 要点
    3
    システムの変化に現行のルールは追いついていない。明文化された法律だけを拠り所にしていると、倫理を大きく踏み外す危険性がある。「美意識」という確固たる価値判断基準が必要である。

要約

【必読ポイント!】 なぜエリートが「美意識」を鍛えているのか?

今問われるリーダーの「美意識」
Gearstd/iStock/Thinkstock

企業のトップに立つようなグローバル企業の幹部候補、いわゆる「エリート」が美術館へ足を運び、アート鑑賞プログラムに参加することが近年増えている。「エリート」とは、世界でもっとも難易度の高い問題解決を担っている人々のことだ。彼らはいま、論理的・理性的スキルに加えて、直感的・感性的スキルの獲得を期待されている。

「分析」「論理」「理性」に軸足を置いた「サイエンス重視の意思決定」では、現在の複雑な社会で経営を行なうことは難しい。クオリティの高い意思決定を継続して行なうためには、明文化されたルールや法律だけを拠り所にするのではなく、「美意識」という判断基準をもつ必要がある。

ここでいう「美意識」とは、デザインや広告宣伝などのいわゆる「クリエイティブ」の領域にとどまらない。経営戦略や行動規範、ビジョンなど、企業が行なう活動の「よい」「悪い」を判断するための認識基準も含んでいる。かならずしも数字や論理で説明できないものを判断する力が「美意識」なのである。

「論理」と「理性」では勝てない時代

「論理」と「理性」に対応するものとして、「直感」と「感性」がある。「論理」と「理性」は文字通り論理性や合理性を、「直感」と「感性」は論理の飛躍、美しさを主軸にしている。

日本企業における大きな意思決定のほとんどは、「論理」「理性」にもとづいて行なわれてきた。実際に日本人の多くは「論理」「理性」を、「直感」「感性」よりも高く評価する傾向がある。

しかしこれは危険な考え方だ。もちろん「論理」「理性」をないがしろにしていいというわけではない。問題は現在の企業運営が、「論理」「理性」に偏りすぎているということにある。

意思決定を「論理」「理性」だけで行なうことは、いつも同じ答えが出るということを意味する。つまり「論理」「理性」に軸を置いて経営すれば、かならず他者と同じ結論に至ることになり、差別化ができなくなってしまう。

かつて日本の強みは、「論理」や「理性」から導き出されたスピードとコスト削減だった。しかしいまでは中国などの海外企業に押され、こうした強みは失われつつある。

これからは「アート」が主導するべき
zhobla91/iStock/Thinkstock

経営は「アート」「サイエンス」「クラフト」が混ざり合ったものだ。

「アート」は組織の創造性を後押しし、ワクワクするようなビジョンを生み出す。「サイエンス」は体系的な分析や評価を通じて、「アート」が生み出したビジョンに裏づけを与える。「クラフト」は経験や知識をもとに、ビジョンを現実化するための実行力となる。ポイントは、どれかひとつが突出していてもだめだということだ。

現在のビジネスでは過度に「サイエンス」と「クラフト」が重視されている。なぜなら「アート」が言語化できないのに対して、「サイエンス」と「クラフト」は言語化して説明できるからである。しかし「サイエンス」と「クラフト」だけに偏ると、「合理的な説明さえできれば何をしてもよい」という企業風土を生みかねない。

昨今問題になっている大手企業のコンプライアンス違反や労働問題の根本には、「過度なサイエンスの重視」がある。新しいビジョンや戦略もないまま、真面目な人達に高い数値目標を課して達成を強く求めれば、行き着く先は不正である。

「サイエンス」だけを重視していては、事業構造を転換したり新しい経営ビジョンを打ち出したりすることはできない。「そもそも何をしたいのか」、「世界をどのように変えたいのか」といった、ミッションやパッションにもとづいた意思決定をするためには、経営者の「直感」や「感性」、つまり「美意識」がどうしても必要になってくる。

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要約公開日 2018.01.08
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