今の30代以下と上の世代は全く異なる価値観で仕事をしている。上の世代は、家、車、最新の家電商品などに対する飢餓感を埋めるため、欲望のままに働いた。「この国を作っているのは自分」という自負を持ち、国や会社の成長と自分の成長がイコールで結ばれていた。仕事での成功が、豊かな暮らしにつながる「乾いている」世代である。
一方で、30代以下の世代は、「何もなかった時代」を知らず、すでに作り上げられた社会の上に立たされているため、埋めるべき空白がない。だから、何かが欲しいと「乾けない」。「ないものを勝ち得るために我慢する」という心理や、上の世代で重要視される「達成」にこだわることへのアンバランスさも感じている。
「乾いている」世代が、「国」や「社会」という大きな枠で動いていたのに対し、「乾けない」世代は、「家庭」「友人」「自分」という小さくて身近な枠の幸せが動機につながる。
しかし、働き方のルールは変わっていない。当事者である「乾けない」世代もマネジメントする側となる上の世代も、このズレを認識する必要がある。
「乾けない」世代のモチベーションを、マーティン・セリグマンが唱えた「人間の5種類の幸せ」という話で説明しよう。人間の幸せは、与えられた目標をクリアすることで感じる「達成」、ドーパミンを感じることで得られるような「快楽」、その他に「良好な人間関係」、「意味合い」、「没頭」で説明できる。
「良好な人間関係」とは、ただ自分の好きな人と笑顔で一緒にいたら楽しいという幸せのことである。昔の世代は、会社のためにすべてを捧げることが、会社と家庭の両面において「良好な人間関係」を可能にした。しかし、そういった生活が限界に来ている時代の中で、社会のパーツではない、良好な人間関係が大切となってきている。
「意味合い」を理解するためには次の具体例がわかりやすい。城の石垣を作っている2人の職人がいたとして、「肉体労働がつまらない」と感じる人と「この石垣ができたら孫の世代まで平和に暮らせる」と感じる人がいた場合、同じ仕事でもその仕事の持つ意味合いが異なる。自分の大切な人のために自分は何ができているか、という意味合いを実感することがモチベーションの源となる。
「没頭」は、職人気質の日本人には多く見られる感じ方で、細かな作業に没頭しているときに感じる人が多い。自分の行う作業の中で基準を設けて成長をし続けることができるのがこのタイプだ。
この5つの軸を使って自分が何に幸せを感じるかを分析することは、自身のモチベーションを引き出すために有効だろう。
「乾いている」世代が、前半の「達成」「快楽」を幸せの基準としていたのに対し、「乾けない」世代は「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」からなる後半の3つを大切にしている。モチベーションを見失っている「乾けない世代」の多くは、いまの仕事にそれらを見いだせていない状態である可能性が高い。
社会的に見てくれが良さそうなことや、誰かが掲げた「達成」を成し遂げるために、自分の嗜好とは異なる仕事に仕方なくついた人は要注意である。「ライフ」と「ワーク」が完全に離れてしまっているかもしれない。
AIの台頭により、作業効率が求められるような仕事において、人間はAIやロボットに勝てないことがわかってきた。しかし、世界を驚かせるようなサービスや革新的なイノベーションは、1人の人間の偏愛からしか生まれない。
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