スタートアップは単なる起業とは異なり、すでにある市場をターゲットにするのではなく、新たな価値を作りだして急成長するものである。ゆえにすべての起業がスタートアップとは限らない。
スタートアップにとってもっとも重要なのは、アイデアの検証だ。そのアイデアが「いいアイデア」かどうかを検証できないうちは、他のことはなにも始めてはいけない。では「いいアイデア」とはどんなものなのだろうか。
いいアイデアはソリューション(解決策)ではなく、課題にフォーカスしているものだ。技術やプロダクトなど、自分たちがやりたいことを先行させて考えてはいけない。ソリューションは顧客の課題を解決するためにある。ゆえに重要なのはそこに課題があるのか、そしてそれが顧客にとって本当に痛みのある課題なのかどうかを見きわめることだ。スタートアップを始めるにあたり、真っ先にしなければならないのは、課題の質を高めることなのである。
誰もがいいと思うアイデアは、スタートアップにおいてはいいアイデアとはいえない。なぜならそうしたアイデアは、すでに他の企業でも検討されている可能性が高いからだ。競合が多い市場だと、スタートアップは不利である。まだ市場が定義されていないような状態の課題に取り組むべきだ。誰かに話したときに相手が戸惑うようなアイデアのほうが、スタートアップには向いている。
一般企業では通用しても、スタートアップでは絶対にしてはいけないことがある。
まず詳細なビジネスプランを作ってはいけない。スタートアップではプロトタイプを作り、顧客からのフィードバックを得ていく過程で、プランやビジネスの方向性が大幅に変わることもしばしばだ。詳細なビジネスプランを作るのは時間の無駄である。
また、競合や差別化を意識するあまり、はじめから機能を盛りこみすぎるのもよくない。あくまで考えなければならないのは、「顧客の課題を解決できるかどうか」である。はじめは本当に必要な機能だけに絞り、課題を解決できるかどうかを考えるべきだ。「あったら便利な機能」は、あとから追加すればいい。
さらに、スタートアップはPRを重視しがちだが、これも間違いだ。プロダクトが未熟な段階でPRを進めてしまうと、最悪のコメントやレビューが永遠に残されることになりかねない。はじめの段階では試作品を顧客に使ってもらい、そこからフィードバックを得て、プロダクトを磨きこむ作業に注力するべきである。
スタートアップが成功するかどうかを左右するもっとも大きな要因はタイミングである。「なぜいまそのアイデアを実行するのか」という質問に答えられないならば、それはいいアイデアとはいえない。市場に早く参入しすぎると、コストが高かったり性能が未熟だったりする可能性が高いし、遅すぎると市場が込みあい、大手に勝てなくなってしまう。
ベストなタイミングをつかむには、進化が止まっている領域に目を向ける手もある。「みんなが使っているから」といった理由で、不便なのに顧客がそのまま使用しているケースは意外に多い。そうした硬直化した領域には、「市場を再定義するプロダクト」を投入しやすく、スタートアップならではのイノベーションを起こし、成功できる可能性が高いのだ。
スタートアップのプロダクトは、「顧客が抱える課題を解決するための手段」である。しかし失敗する多くのスタートアップは、自分たちで解決できる範囲内に収めるため、そもそもの課題をでっちあげてしまっている。「自分たちが作りたいから作る」のではいけない。スタートアップの命となるのは、「本当にその課題が存在しているのか」の検証だと肝に銘じるべきだ。
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