日本における花粉症の歴史は1961年にさかのぼる。アメリカ進駐軍がもちこんだブタクサによる報告が最初で、その2年後にスギ花粉症が確認された。
「花粉症」という呼び名が広く知られるようになったのは、1980年代に入ってからだ。戦後復興のために国内に植林されたスギが成木となり、一斉に花粉の飛散がはじまったことで、症状を訴える人が激増したといわれている。
一方で治療法の開発も進みはじめ、「抗ヒスタミン剤」と「ステロイド剤」がその中心となった。
本来無害な花粉を体が有害だと誤認して、それを排除しようと過剰に反応してしまうアレルギー反応、それが花粉症である。
人間の体には、細菌やウイルスなどを攻撃して排除する「免疫システム」が備わっている。これが正常に働いていれば、体に有害な異物を見分け、守るための反応を起こしてくれる。
しかしなんらかの理由で免疫システムが乱れると無害な物質、とくに「アレルゲン」と呼ばれる物質へ過剰に反応し、自分の体を傷つけてしまう。
アレルゲンになる可能性をもっているものは多数ある。スギ、ヒノキ、ブタクサといった花粉のほか、ウイルスや細菌、真菌、食べもの、ペットの毛やフケ、ダニやハウスダストなどもアレルギー反応を引き起こす。
これらのアレルギー反応が起きるメカニズムは同じであるため、なにかしらアレルギー症状のある人は、別のアレルギー症状を併せもつことが多い。
花粉症の治療に使われる抗ヒスタミン剤は、アレルゲンが体内に入ったとき、ヒスタミンが受容体と結合してアレルギー反応が起きるのを防いでくれる。しかしヒスタミンは脳内だと神経伝達物質として機能しており、集中力や判断力、覚醒の維持などに関係している。かつて使われていた「第1世代」の抗ヒスタミン剤の問題点は、脳内のヒスタミンも抑えられてしまうことにあった。
またステロイド剤も花粉症治療に使われている。これは体内の副腎皮質で分泌されるステロイドというホルモンを、人工的につくりだしたものだ。ヒスタミンによって引き起こされた粘膜の炎症を鎮めたり、免疫系などの反応を低下させて、アレルギー反応を抑えたりする作用がある。強い効き目があるが、そのぶん副作用も大きい。ステロイドを使用すると、副腎は体に充分なステロイドがあると勘違いし、その働きを落としてしまう。そして本当に必要なとき、分泌されなくなってしまうのだ。
いま抗アレルギー剤の主流として用いられているのは、「第2世代」の抗ヒスタミン剤である。第1世代のものとはちがい、こちらは鎮静作用がほとんどない。とはいえいずれにせよ対症療法にとどまり、花粉症を完治させるものではない。
現時点における最新の治療法は、大きく分けて2つある。
1つ目はレーザーによる手術療法だ。鼻の粘膜にレーザーを当てて、一部を除去。花粉に反応する粘膜の面積を狭くし、アレルギー反応を軽減しようという外科的な療法である。
この療法は一時的によく効くが、問題もある。粘膜は再生能力が高いため、1~3年すれば症状がまた出てきてしまうのだ。すると再度レーザーをすることになるのだが、そうすると粘膜はどんどん萎縮する。萎縮した粘膜はガンになりやすい。しかもかさぶたができたり、粘膜自体が分厚くなったりして、鼻をふさぐような状態にもなりかねない。
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