投資に難しさを感じている人は少なくない。損をするのではないかと警戒したり、なかなか儲からないと嘆いたりする。こうした投資で苦労している個人投資家や機関投資家がやっているのは、実は投資ではない、と著者はいう。
世の投資家の多くが考えることは、お金を殖やすことだ。つまり、買った時より高く売って、いかに値ザヤを稼ぐかだ。そのために株価などの価格変動を常に追いかけている。その様相はまるで博打のようで、お金の分捕り合戦であり、単なるマネーゲームにすぎない。こうした投資のやり方を著者は「銭ゲバ」投資といい、本来の投資の姿ではないと警鐘を鳴らす。
マーケットというものは、ありとあらゆる人や組織が、それぞれの利益目的をもって自由気ままに集まり、参加できる場である。「銭ゲバ」投資であれ投機であれ、参加者が多ければ多いほど価格が変動する。そして、マーケットの価格形成を厚くする。
マーケットの値動きは、需要が多ければ上がり、供給が多くなれば下がっていく。一見すると単純だが、ここから値ザヤを抜いて儲けることは実に難しい。
株価が勢いよく上昇し出すのを見ると、儲かりそうな気がしてくる。それは他の人も同じだ。参加者が「儲かりそう」と思えば思うほど、買いが多くなり株価は上昇する。そこで飛びついて買ってみたものの、その後株価は思ったほど伸びなかったとする。「儲かりそうにない」と思った瞬間、参加者はすぐに売ってくる。下げに転じた株価を見て、さらに参加者は逃げ売りに走る。売りが殺到すると株価は急落する。そしてその後、買いが盛り返す。こうした相場の基本パターンが延々と繰り返されるのだ。
このように、マーケットの値動きは、投資家の心理にいかようにも左右される。値動きに飛びつくだけの「銭ゲバ」投資家が実に多い。それを投資だと勘違いしているため、儲からないし、投資は難しいと思いこんでしまう。
「銭ゲバ」投資家たちが行う値ザヤ稼ぎを、著者は「ディーリング」と呼んで、投資行動と区別している。彼らが相手にするのは価格変動のみだ。興味の対象は、いくら儲けが出たか。それは投資運用ではなく資金運用である。こうした資金運用と一線を画するのが、著者が本物の投資だと考える「長期投資」だ。
長期投資家は、短期の値ザヤ稼ぎには目もくれない。マーケットと常に一定の距離を保っており、価格変動を追いかけたりはしない。安い時に買っておいて、高くなったら売る。このシンプルな投資行動を繰り返すだけだ。
たとえば、景気や業績の悪化から相場が暴落するとする。すると、たいていの投資家は売り逃げに走る。誰も買おうとしないから暴落相場となる。そんな時でも長期投資家は、将来価値が高まると思えば、躊躇なく上機嫌で買い増しにいく。
この行動は、はたから見ると、リスクを取っているかのように見える。しかし、その後はどこで売っても投資リターンが得られる。これこそが投資運用の本質なのだ。
投資運用とは、リスクを取ってリターンを得ることをいう。その運用資金はマーケットを通して経済の現場に投入され、経済活動を活発化させる。
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