この数年、人事のグローバル化を進める日本企業は増え続けている。ビジネスのスピードが加速する中、グローバル競争に勝ち抜くには、グローバルに商品やサービスを普及させるスピード感がますます重要になるためだ。
グローバル人事の目的とは、事業のグローバル化に伴う「人材の変化」に、人事のやり方を対応させることである。人材の変化は具体的には、人材の多様化、人材需給のグローバル化、人材の流動化の三つを指す。今後は、現地の人材を採用する機会が増え、人事管理の対象が日本人以外にも及ぶ。彼らが長く活躍するためには、性別や国籍、言語、バックグラウンドなどが異なる人材を扱えるよう、柔軟性の高い施策や受け入れ態勢が欠かせない。
また、様々な国に拠点ができるにつれ、別の国で採用した社員を、国を越えて異動させるといったグローバルな人材配置が増える。となると、評価や処遇制度をグローバルに対応させなければならない。
さらには、人材の多様化に伴い、雇用に対する価値観も様々になる。海外の流動的な人材マーケットを考慮して採用する、退職リスクに備える、といったことも求められる。
いずれにせよ、海外企業の施策をやみくもに導入したり、他社の事例をそのまま真似たりするのはふさわしくない。まずは自社がどんな方法で事業をグローバル展開させたいのかを把握し、その方向性や事業戦略に合った人事のやり方を選択しなければならない。
海外で事業展開している企業には、組織形態やグローバル展開の方向性などにより、三つのグローバル人事の段階がある。一つ目は、本社人材を海外現地法人の主要ポストに派遣する、「セントラル人事」だ。日本企業が以前から行う人事のモデルで、Samsungもこのやり方をとっている。ただし、海外支社を統括できる優秀なリーダーを数多く育成しなければならない。そのため、相当体力のある大企業でなければ実現は難しいといえる。
二つ目は、現地人材による現地法人トップを育成する、「マルチナショナル人事」だ。コマツ、ネスレなどがこのモデルを採用しており、今、多くの日本企業がめざしているグローバル人事のモデルでもある。特徴は、経営のほとんどを現地に任せ、現地のマーケットに最適な製品やサービスを提供しようとする点だ。ただし、現場の力が強くなりすぎると、本社のガバナンスが効きにくくなる。課題として、ガバナンスモデルの構築と、現地リーダーのキャリアパスの設計が求められる。
そして三つ目は、国や地域を越えてグローバルな人事施策を行う、「インターナショナル人事」だ。スピーディーな世界展開に向けて、国や地域を問わず、最適な事業を最適なロケーションに配置することをめざす。GEやP&G、武田薬品工業など、一部のグローバル企業だけが実現しているモデルである。ただし、このモデルを実現するには、組織としてのまとまりや組織力を向上させる取り組みが欠かせない。
実際には、これらのモデルの中から複数のモデルを、事業展開のステージや特性に応じて、事業ごとに使い分けるケースが多い。
グローバル人事を進めるには、その組織がめざすゴールを定めなければならない。めざすゴールによって、やるべきことや整備すべき人事制度は異なるためだ。グローバル人事で大事なのは、事業戦略との整合性である。よって、自社の状況、事業自体をしっかりと分析することが欠かせない。
日本企業がグローバル人事に挑戦する際、次の三つのポイントを変化させなければならない。まずは、「結果人事→計画人事」である。前者は、年次の横並びで、一定の年齢になったときに結果的にリーダーが育つのを待つという仕組みだ。これでは、事業戦略に合わせて、その実行に必要な若手リーダー人材を選抜、育成することが難しい。よって、めざすべき人材の配置計画に基づいて、年齢や経験年数にかかわらず、若い頃から多様な経験を意図的に積ませなければならない。
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