幸せとお金の経済学

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幸せとお金の経済学
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出版社
フォレスト出版

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出版日
2017年11月03日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

ビル・ゲイツが大邸宅を新築したらしい――そのニュースを中間所得層の人が知ったとして、果たして不快に感じるだろうか。きっとそんなことはないだろう。むしろ、その大邸宅がテレビにでも紹介されれば、楽しんで観るかもしれない。このように、富裕層の消費と中間所得層の消費は無関係のように見える。しかし著者は、富裕層が今までよりも大きな家を建てることによって、やがて中間所得層が建てる家も大きくなると説明する。不思議に思うかもしれないが、その背景には「コンテクスト」が関係している。

コンテクストとは、その人が置かれている状況や背景、他人との関係を意味し、人々の支出額を左右しうる。冒頭の例では、中間所得層の人が大邸宅を気にすることはなくても、富裕層のすぐ下の所得層に位置する人にとってはより大きな家を望む十分な動機になる。彼らが実際に大きな家を購入すれば、次はその下の層に影響は連鎖し、やがて中間所得層の住居の大きさまで変えてしまうのだ。ただし、住居の大きさの基準が変わったからといって、所得が増えるわけではない。なんとかその資金を捻出しようと、労働時間を増やしたり、睡眠時間を削ったりと血のにじむような努力を強いられることになる。

本書では、人々の幸福に重くのしかかる経済的圧力の正体が解き明かされるとともに、あらゆる人が幸せに暮らすための政策が提案される。ぜひ本書を手に取り、『幸せとお金の経済学』というタイトルの意味を考えてみていただきたい。

ライター画像
二村英仁

著者

ロバート・H・フランク
H.J.ルイス講座教授(経営学)。コーネル大学ジョンソンスクール経済学教授。ニューヨーク州イサカ在住。ニューヨーク・タイムズ紙では10年以上にわたり経済コラムを執筆。著書に『ウィナー・テイク・オール』(フィリップ・J・クックとの共著、日本経済新聞社)、『日常の疑問を経済学で考える』(日経ビジネス人文庫)などがある。最新刊は『成功する人は偶然を味方にする』(日本経済新聞社)。

本書の要点

  • 要点
    1
    人は消費をはじめとするあらゆる選択において、コンテクストに左右される。コンテクストとは、人が置かれている状況や関係を意味する。
  • 要点
    2
    周囲との比較によって満足を得るものを「地位財」、それ自体に価値を見いだせるものを「非地位財」という。たとえば所得や住居は地位財に、健康やレジャーは非地位財にあたる。
  • 要点
    3
    富裕層以外の層の所得はほとんど増えていないにもかかわらず、地位財にかかるコストは引き上げられるいっぽうだ。その結果、労働時間が増え、生活が苦しくなっている。累進課税を導入するなどの政策を検討する必要がある。

要約

コンテクストとは何か

相対的欠乏による選択
Digital Vision./Photodisc/Thinkstock

コンテクストとは、その人が置かれている状況や背景、他人との関係のことだ。私たちは、物事を、過去との比較や他者との比較というコンテクストで評価している。たとえば、あなたの家の大きさは、同じ地域の他の家と比較したうえで評価されるといったようなことだ。この評価は私たちのさまざまな選択を左右しており、経済的選択の多くもコンテクスト抜きで語ることはできない。

それにもかかわらず、経済学者たちは、経済的行動におけるコンテクストの影響について考慮していないように見える。それが羨望や嫉妬といった否定的な感情にかかわるものだと考えているからかもしれない。しかし、それは誤解だ。コンテクストの影響は、羨望のために生じるものではない。重要な利益が相対的地位によって決まるためである。

自動車を例にとって考えてみよう。著者は、真新しいレクサス・セダンを購入した友人に、「もっと安くて信頼性も同じくらい高い、同じメーカーのトヨタ・セダンではなくレクサスを選んだのはなぜか」と尋ねた。その問いに対する彼の答えは、「レクサスの質の高さに魅力を感じたのだ」であった。彼は、トヨタ・セダンよりも、同じ環境においてプラスとされる特徴を持つレクサスのほうが良質だと判断し、より高い金額を支払ったのだ。これは、他の誰かの上に立ちたいという考えではなく、自分のために質を求めたいという考えに基づいた選択だ。そして、羨望による選択と同じであるといえるが、羨望がなくとも生じる現象である。

【必読ポイント!】 所得の格差が引き上げる「基準値」

拡大する所得格差

本書の主題である幸せとお金について考えるにあたり、まずはアメリカの所得と富の分配の変化を見てみよう。1949年から1970年代の終わりにかけて、トップ5パーセントから下位20パーセントのすべての層の所得は、年に3パーセント弱という同じ割合で増加した。この時期の支出についても、同じ割合での増加が見られた。つまり、どの層においても、所得と消費の伸びのバランスが維持されていたのである。

このバランスに変化がみられたのは、1970年代である。1979年から2003年の期間を見てみると、最下層の所得の伸びは実質購買力の3パーセント程度にとどまっており、中間所得層全体に関してもごくわずかにとどまっている。それに対し上位20パーセントの層の所得は大きく伸びているのだ。特に、トップ1パーセントの層の所得の増加は注目に値するものがある。加えてこの時期には、層ごとの所得の伸びが不均一であったことも特筆すべき点である。

トップ層の所得が増え、中間所得層の所得も減ってはいないことから、社会全体としては悪くないのではないかと感じるかもしれない。しかし、所得と富の分配が変化したことにより、中間所得層世帯は、心理的コストと経済コストを押しつけられているのだ。

中間所得層に押しつけられるコスト――住居費
Jupiterimages/Creatas/Thinkstock

中間所得層の所得の伸びはごくわずかであるにもかかわらず、トップ層の支出が増えれば、それに伴って中流家庭にかかるコストまで引き上げられてしまう。

たとえば、住居費だ。これは、トップ層の所得が増えることにより、彼らが以前よりも大きな家を建てることに端を発する。

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要約公開日 2018.08.01
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