「湘南」の誕生

音楽とポップ・カルチャーが果たした役割
未読
「湘南」の誕生
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「湘南」の誕生
ジャンル
出版社
リットーミュージック

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出版日
2019年02月28日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「湘南」はどこからどこまでか。改めて考えてみると、その範囲は極めて曖昧であることがわかる。行政区域上の「湘南」と自動車ナンバーが示す「湘南」とでは範囲が異なるし、気象庁のいう「湘南」もまた異なる。

このように不思議なエリアであるにもかかわらず、「湘南」が日本でも屈指のブランド力を持っていることは興味深い。「湘南」といって思い浮かべるのは、お洒落な海沿いや高級な住宅、そしてヤンキーだろう。複数のイメージがあり、範囲もはっきりしないエリアなのに、なぜ人びとを強く惹きつけるのだろうか?

本書の目的は、この不思議なエリアを徹底分析することにある。地理的な考察に加えて、「湘南」をあつかった音楽、文学、映像、マンガ、アニメなどから、「湘南」というイメージがどのような経緯で形成されたのかを考えていく。本書で取り上げられる作品の数は多岐にわたり、その数の多さに、「湘南」の凄さを再認識することになる。懐かしさを覚えるものもあり、もう一度作品を確認したくなってしまう危険性もはらんでいる。

本書は、「湘南」に興味がある読者にとって、湘南のブランドが形成されてきたストーリーとプロセスを楽しめるものだ。また、特定のエリアのブランディングを考えるうえでも大いに参考になるだろう。「湘南」論を楽しみつつ、いかに「湘南」ブランドが形成されてきたかの記録としてもお読みいただける一冊だ。

ライター画像
加藤智康

著者

増淵 敏之(ますぶち としゆき)
現在、法政大学大学院政策創造研究科教授。専門は文化地理学、経済地理学、外部委員、社会活動としてはコンテンツツーリズム学会会長、文化経済学会〈日本〉副会長、タマサート大学(タイ国)客員研究員(2017年度)、法政大学地域創造システム研究所所長、希望郷いわて文化大使、小田原市政策戦略アドバイザーなど。主な著作に2010年『物語を旅するひとびと』(単著/彩流社)、『欲望の音楽』(単著/法政大学出版局)、2012年『路地裏が文化を生む!』(単著/青弓社)、2016年『きょうのごはんは「マンガ飯」』(watoとの共著/旭屋出版)、2017年『おにぎりと日本人』(単著/洋泉社)、2018年『ローカルコンテンツと地域再生』(単著/水曜社)など多数。研究の傍ら、地域発コンテンツ創出の実践例も多数。
1957年、札幌市生まれ、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。NTV映像センター、FM北海道、東芝EMI、ソニー・ミュージックエンタテインメントにおいて放送番組、音楽コンテンツの制作及び新人発掘等に従事。

本書の要点

  • 要点
    1
    「湘南」という言葉は、地理的な範囲を厳密に定義したものではない。
  • 要点
    2
    「湘南」のイメージが複数あるのは、小説、音楽、映画、マンガ、アニメなどのコンテンツ作品による影響が大きい。別荘文化からは「高級、富裕層」イメージが、海やサザンオールスターズからは「若者」イメージが、そして『スラムダンク』などからはヤンキーイメージが形成されているはずだ。この3つの層が重ねあわさって、「湘南」のイメージが形成されている。

要約

「湘南」の範囲とイメージ

「湘南」が指す範囲

お洒落な海沿いのエリアというイメージが定着している「湘南」。このエリアは、不思議なエリアでもある。それは、単に「湘南」といっても範囲が曖昧で、人によってイメージするエリアが異なっているからだ。

実際に、自動車ナンバーの「湘南」と行政区域の「湘南」、そして気象庁のいう「湘南」は、それぞれ指す範囲が異なる。しかも、一般的な「湘南」のイメージに近い鎌倉市、逗子市、葉山町はいずれにも含まれていない。

各人によってとらえ方が異なる「湘南」だが、魅力的なイメージは共通している。本書のテーマは、そんな魅力的な「湘南」のイメージ形成のプロセスや伝達のプロセスを明らかにしていくことだ。本書では葉山から大磯にかけての相模湾沿岸を「湘南」と定義し、検証していく。

国道134号線沿線
gyro/gettyimages

歴史性を加味しつつ、「湘南」を少し広義に捉えるとするならば、国道134号線沿線といえるだろう。具体的には、横須賀市の長者ヶ崎から大磯駅前の沿線である。このルートを車で走ってみると、きっと納得できるはずだ。

長者ヶ崎からスタートすると、左手に葉山御用邸、葉山マリーナを通り過ぎる。逗子市の中心街を右手に見て、丘の上の披露山庭園住宅地の横を抜けていくと、逗子マリーナのリゾートマンション群を左手に走ることになる。

トンネルを抜けて少し行くと、鎌倉市に入る。川を挟んで左側は由比ヶ浜。過去には夏目漱石の『こころ』にも登場したスポットだが、今やサーファーのメッカになっている。このあたりから江ノ島電鉄と並走し、江ノ島へ。鵠沼、辻堂、茅ヶ崎のサザンビーチと進み、相模川を越えると平塚だ。終点は、大磯ロングビーチが有名なJR大磯駅である。

このコースを走ってみると、「湘南」に関してほとんど共通のイメージが描けるだろう。何よりも「海」である。「海」を中心としたイメージ形成が行われている地域は他にもあるが、「湘南」のブランドイメージは最高位だといえよう。

「湘南」のイメージを創る3つの要素
paylessimages/gettyimages

「湘南」はどのようなイメージで捉えられているのだろうか。実は意外と、「湘南」全体に関するイメージ調査は数少ない。

2003年に実施された「湘南ブランドの価値に関する研究」によると、地元住民の54%が江ノ島および海という環境に「湘南」ブランドを感じているという。一方、「湘南」以外の神奈川県民の53%、他県の住民の40%が「サザンオールスターズ」「サーフィン」といった非環境にブランドを感じている。

アンケートの形式によっては、もう少し別のイメージが見いだせたかもしれない。だがいずれにせよ、「湘南」のイメージとして何より目立つのは「海」や「夏」であろう。加えて、鎌倉、葉山などには別荘文化の「高級、富裕層」イメージ。海やサザンオールスターズからは「若者」イメージ。『スラムダンク』などからはヤンキーイメージが形成されているはずだ。そしてこの3つの層が重ねあわさって、「湘南」のイメージが形成されているのではないだろうか。本書では、この仮説を検証する形で論を進めていく。

【必読ポイント!】 コンテンツ作品によるイメージ形成

「湘南」を生活圏にした「音楽」

「湘南」と音楽が結びついたのは、「湘南」サウンド以降であろう。湘南サウンドの定義は1960年代以降、「湘南」(主に茅ヶ崎)育ちの若者を中心に発表された、海やスローライフをテーマとする音楽だ。加山雄三やサザンオールスターズ、TUBEなど、数々のアーティストがその代表格である。

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要約公開日 2019.05.16
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