雑草はなぜそこに生えているのか

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雑草はなぜそこに生えているのか
出版社
出版日
2018年01月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「雑草」に対して、どんなイメージを持っているだろうか。「邪魔者」「生命力が強く図々しく生える草」、それとも「踏まれてもへこたれない不屈の精神」などを想起するだろうか? 雑草には、とにかく「たくましい」という印象を持っている人が多いのではないだろうか。しかし、それはリアルな雑草の姿ではないのだ。

雑草は、じつは植物の世界の中では、生存競争に負けてしまう弱者なのだという。けれど、競争力のある植物たちが集まる森から逃げ出して、道端や畑などの人間がいる場所で居場所を見つけて繁栄している。本書は、種子の発芽、変異体の出現、花の生殖のしくみなどの雑草に特徴的な性質を紹介しながら、雑草がいかにして現在の繁栄を手にしたのかを語る。雑草の真の姿を知ると、道端に生えている雑草が、特別な植物のように思えてくるから不思議である。その草丈にも、生えている場所にも、生き抜くための深い意味があるのだ。

本書は、中高生向けの『植物はなぜ動かないのか?』の続編で、あくまでも植物学の本である。ただし、驚くべきことに、本書はそれだけでは終わらない。著者は雑草の姿から、現代の人間社会を生き抜く知恵をも汲み取ろうとしている。読む人によっては、自己啓発書のようだと感じるかもしれない。しなやかに生きる雑草には、それほど学ぶべきものがあるのだ。植物好きな方だけでなく、組織の中の自分の在り方について悩んでいる方々にも、ぜひ本書を読んでみていただきたい。自分らしい生き方のヒントを、得られるかもしれない。

ライター画像
中山寒稀

著者

稲垣 栄洋(いながき ひでひろ)
1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている。著書に、『植物はなぜ動かないのか 弱くて強い植物のはなし』『イネという不思議な植物』(ちくまプリマ―新書)、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』『身近な生きものの子育て奮闘記』(以上、ちくま文庫)、『たたかう植物 仁義なき生存戦略』(ちくま新書)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    雑草は、植物の世界の生存競争に弱いがゆえに、他の植物がすみにくい人間がいる特殊な場所を選んで生えてくる。だが、道端や畑にはびこる雑草は、明らかに繁栄している成功者といえる。
  • 要点
    2
    雑草のような野生の植物が絶滅せずに長い時間、世代をつないでいくためには、「多様性」が必要である。雑草は「変異」が大きいという特徴がある。
  • 要点
    3
    自然界の鉄則として、同じような環境で暮らす生物同士は、激しく競争し、ナンバー1しか生きられない。これを「ガウゼの法則」という。ナンバー1になれるオンリー1の場所を、生態学では「ニッチ」という。

要約

雑草は強くない

雑草の戦わない戦略
Marlon Trottmann/gettyimages

そもそも雑草の定義とは何だろうか。学術的には「邪魔になりやすい植物」「邪魔になることが多い植物」を雑草と呼ぶ。

じつは「その辺の何でもない植物」というイメージとは違って、雑草になるのは簡単ではない。道端や畑で増えることは植物にとって特殊なことであり、特殊な能力を必要とすることなのだ。雑草になりやすい植物の性質は「雑草性(Weediness)」と呼ばれる。日本にはおよそ七〇〇〇種の種子植物があると言われているが、雑草として扱われているのはわずか五〇〇種だという。

雑草と呼ばれる植物に共通する、もっとも基本的な特徴は「弱い植物である」ということである。どこにでも生えて、たくましく見える雑草は、実は弱い植物なのだ。

自然界では激しい生存競争が行なわれており、植物の世界もまた例外ではない。光や地中の水や養分を奪い合っているのだが、雑草はこの競争に弱い。そのため、雑草は、多くの植物が生える豊かな森には生えることができず、道端や畑のような、人間がいる特殊な場所を選んで生えてくるのだ。弱い植物である雑草の基本戦略は「戦わないこと」である。だが、人間の住むところ近くにはびこる雑草は、明らかに繁栄している成功者だ。

植物にとっての成功戦略の要素は、イギリスの生態学者のジョン・フィリップ・グライムによれば、三つに分類できるという。「C‐S‐R三角形理論」と呼ばれるその分類によると、まずCは「Competitive」、つまり他の植物との競争に強い競合型である。Sは「Stress tolerance」であり、乾燥や日照不足などに耐える、ストレス耐性型を意味する。最後のRは「Ruderal」を意味し、直訳すれば「荒地に生きる」となるが、予測不能な環境の変化に強い、攪乱依存型と呼ばれている。すべての植物はこの三つの要素のバランスを変えながら独自の戦略を発達させていると考えられるが、雑草と呼ばれる植物は、この中のRの要素が特に強いとされている。

雑草をなくすには?
damiangretka/gettyimages

抜いても抜いても雑草を完全に根絶やしにすることは難しい。しかし、一つだけ、雑草を根絶やしにする方法がある。それは意外にも「雑草を取らないこと」である。

ある場所に集まって生育している植物の集団は、放っておくと小さな植物から大きな植物へと変化していく。このような植物の移り変わりを「遷移」という。遷移は、裸地→地衣類やコケ植物→草原→低木林→陽樹林→混交林→陰樹林という変化であるが、じつは身近なところでも起こっている。建物がなくなった後の跡地や、海を埋め立てた造成地が裸地となり、遷移がスタートしているのだ。

最初に生えてくるのが、パイオニア植物としての性格が強い一年生の雑草だ。芽が出てから1年以内で枯れてしまうため、遷移がすすむと一年生雑草が減り、代わりに多年生の雑草が生えてくる。多年生雑草はスタートダッシュが遅いが地面の下の根っこなどにじっくりと力を蓄えることができるため、雑草の中では比較的競争に強い。そのため、一年生雑草を押しのけて、広がることができる。やがて、草だけではなく、小さな木が生えて藪になる。生存競争に強い木々がたくさん生えてくれば、雑草はなくなってしまう。ただ、藪になっては大変なので、人間が雑草を抜いたり、除草剤で除去する。その結果、雑草がなくなるため、再び裸地から遷移がスタートすることになるのだ。

つまり、雑草を取らなければ、雑草はなくなっていく。人間が耕したり、草取りをしたりすることで、雑草は生存の場が確保されているのである。

雑草は変化する

多様性という戦略

環境や時代の変化で滅びずに世代をつないでいくため、生物にとって遺伝的な多様性はとても大切だ。

遺伝的に多様性がない特異な植物として、

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要約公開日 2019.07.15
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