そもそも雑草の定義とは何だろうか。学術的には「邪魔になりやすい植物」「邪魔になることが多い植物」を雑草と呼ぶ。
じつは「その辺の何でもない植物」というイメージとは違って、雑草になるのは簡単ではない。道端や畑で増えることは植物にとって特殊なことであり、特殊な能力を必要とすることなのだ。雑草になりやすい植物の性質は「雑草性(Weediness)」と呼ばれる。日本にはおよそ七〇〇〇種の種子植物があると言われているが、雑草として扱われているのはわずか五〇〇種だという。
雑草と呼ばれる植物に共通する、もっとも基本的な特徴は「弱い植物である」ということである。どこにでも生えて、たくましく見える雑草は、実は弱い植物なのだ。
自然界では激しい生存競争が行なわれており、植物の世界もまた例外ではない。光や地中の水や養分を奪い合っているのだが、雑草はこの競争に弱い。そのため、雑草は、多くの植物が生える豊かな森には生えることができず、道端や畑のような、人間がいる特殊な場所を選んで生えてくるのだ。弱い植物である雑草の基本戦略は「戦わないこと」である。だが、人間の住むところ近くにはびこる雑草は、明らかに繁栄している成功者だ。
植物にとっての成功戦略の要素は、イギリスの生態学者のジョン・フィリップ・グライムによれば、三つに分類できるという。「C‐S‐R三角形理論」と呼ばれるその分類によると、まずCは「Competitive」、つまり他の植物との競争に強い競合型である。Sは「Stress tolerance」であり、乾燥や日照不足などに耐える、ストレス耐性型を意味する。最後のRは「Ruderal」を意味し、直訳すれば「荒地に生きる」となるが、予測不能な環境の変化に強い、攪乱依存型と呼ばれている。すべての植物はこの三つの要素のバランスを変えながら独自の戦略を発達させていると考えられるが、雑草と呼ばれる植物は、この中のRの要素が特に強いとされている。
抜いても抜いても雑草を完全に根絶やしにすることは難しい。しかし、一つだけ、雑草を根絶やしにする方法がある。それは意外にも「雑草を取らないこと」である。
ある場所に集まって生育している植物の集団は、放っておくと小さな植物から大きな植物へと変化していく。このような植物の移り変わりを「遷移」という。遷移は、裸地→地衣類やコケ植物→草原→低木林→陽樹林→混交林→陰樹林という変化であるが、じつは身近なところでも起こっている。建物がなくなった後の跡地や、海を埋め立てた造成地が裸地となり、遷移がスタートしているのだ。
最初に生えてくるのが、パイオニア植物としての性格が強い一年生の雑草だ。芽が出てから1年以内で枯れてしまうため、遷移がすすむと一年生雑草が減り、代わりに多年生の雑草が生えてくる。多年生雑草はスタートダッシュが遅いが地面の下の根っこなどにじっくりと力を蓄えることができるため、雑草の中では比較的競争に強い。そのため、一年生雑草を押しのけて、広がることができる。やがて、草だけではなく、小さな木が生えて藪になる。生存競争に強い木々がたくさん生えてくれば、雑草はなくなってしまう。ただ、藪になっては大変なので、人間が雑草を抜いたり、除草剤で除去する。その結果、雑草がなくなるため、再び裸地から遷移がスタートすることになるのだ。
つまり、雑草を取らなければ、雑草はなくなっていく。人間が耕したり、草取りをしたりすることで、雑草は生存の場が確保されているのである。
環境や時代の変化で滅びずに世代をつないでいくため、生物にとって遺伝的な多様性はとても大切だ。
遺伝的に多様性がない特異な植物として、
3,400冊以上の要約が楽しめる