会議で議論をしているときに、その場で厳密に計算をしはじめると時間がかかりすぎて、議論が中断してしまう。そうならないよう、議論している事象の数字的な規模を概算する際に有効なのが「フェルミ推定」だ。以前は物理学系や工学系の研究所や工場などでよく使われていた見積もり方法だったのだが、近年では企業の入社試験に使われるようになったことをきっかけに、ビジネスシーンでも重宝されるようになってきた。
たとえば新商品開発について議論するとき、購入してくれるユーザー数をその場で正確に求めることは難しいが、おおまかに10万人とか100万人といった推定を行うことができれば十分に有効な数値となる。なかには競合他社がすでに進出していることを加味して見積もらなくてはいけないものもあるだろう。いくつかの手がかりになりそうなデータを元に論理的に推論し、短時間でざっくりと計算することを「フェルミ推定」という。
「フェルミ推定」は放射性元素を発見して1938年にノーベル賞を受賞した、物理学者エンリコ・フェルミに由来する。フェルミの有名な問題の一つに「シカゴにはピアノ調律師が何人いるか?」というものがある。当時のシカゴの人口はおよそ300万人と仮定して、この問題を考えてみよう。
まず考えなくてはならないのは家の戸数だ。なぜならピアノは1軒に1台、という考え方が一般的だからである。ここでは一世帯当たりの人数が3人と仮定しておこう。
次にピアノの所有割合について考えてみよう。自分のまわりを見回してみると大体10世帯に1台くらいの「桁」でピアノを所有していることがわかる。
では、いったいどれくらいの頻度でピアノを調律するのだろうか。ピアノを持っている人であれば分かるだろうが、ピアノは1年に1回、多くても2回調律する程度である。調律には時間がかかり、1日に調律できるピアノの数はせいぜい3台が限度だ。また、ピアノの調律師は毎日働くわけではないので、週休2日として年間250日働くものと仮定しよう。
こうした諸々のデータが頭の中に用意できたら、次はこれらを組み合わせて計算していく。
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