MBAは経営学修士と呼ばれるため、経営学という独立した学問があるかのように誤解される。だが、実際はそうではない。経営学は経営者が学ぶべきことの集合体であり、主に6分野の専門領域の寄せ集めといえる。
その分野は一般的に、経営戦略、マーケティング、アカウンティング、ファイナンス、人・組織、オペレーションの6つから成る。専門の内容を教えるのはそれぞれの道の専門家である。初学者にとって経営学が難しいといわれる原因の1つがここにある。
MBA基礎が抱えているもう1つの問題は、経営における「全社レベル」と「事業レベル」が混在していることである。前者は、複数の事業管理を必要とする、大企業の経営者が考えるべき領域だ。実際には、事業部長以下のポジションにあるビジネスパーソンの多くは、1つの事業に取り組んでいる。
しかし、MBAのカリキュラムには、M&AやPPM(事業ポートフォリオ管理)などの全社レベルの内容が紛れ込んでいる。そこで本書では、全社レベルと事業レベルを峻別して、後者の事業レベルの理解と実践に特化している。
事業経営の中核は、ビジネスモデルの理解と構築にある。そもそもビジネスモデルとは、ビジネスを単純化したものだ。本書では究極の単純化として、「ターゲット」「バリュー」「ケイパビリティ」「収益モデル」という4要素に絞り、各目的別にビジネスを考えていく。
1つ目のターゲットは、商品やサービスの利用者、支払い者など、事業成立に寄与する者を指す。
2つ目のバリューとは、ターゲットに提供する価値のことだ。機能などの基本的価値に加え、B2B(法人向け)であれば、品質、価格、納期、サービスなどを含む。また、B2C(個人向け)であれば、ブランドや「楽しい」「格好いい」といった感覚的なものも価値になる。
3つ目のケイパビリティとは、バリューをターゲットにどう提供するかであり、リソース(経営資源)とオペレーションを合わせたものだ。研究開発から、販売後のアフターサービスまで、ビジネスには多くの人や設備に支えられた膨大なオペレーションが必要で、それらをカバーしなければならない。
4つ目の収益モデルとは、事業で得られる売上とかかったコストが見合っているかの算段を指す。お金が回らなければケイパビリティを構築・維持することはできない。
これら4つの要素が組み合わさることで、ビジネスモデルが成立する。
これまでの経営学6分野と、本書のビジネスモデルの関係を表したのが、「経営学6分野とビジネスモデルとの関係」の図である。大ざっぱにいえば、事業経営では、ターゲットとバリューを定めるために、経営戦略とマーケティングを学び、ケイパビリティの設計とその実現のために、人・組織とオペレーションを学ぶ。さらに、収益モデルをつくり上げていくために、アカウンティングを学ぶ。これが経営学を学ぶ目的である。
事業レベルであっても、経営に求められることは多岐にわたる。経営に必要な視点とは、事業を専門分野ごとに細切れに見ることではなく、事業全体を見ることなのだ。
要約では、ビジネスモデルの4要素に沿って、本書のポイントの一部を紹介する。まずはターゲットを考える際に役立つ、マーケティングの重要なフレームワーク、「STP」をとりあげる。STPとは、「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」をセットにした呼称だ。
セグメンテーションは顧客を細分化すること、その中で攻める対象を絞り込むことがターゲティングである。そして、ポジショニングとは、絞り込んだターゲットに対して、どのようなバリューを提供するのかを決めることを意味する。
顧客を細分化すればするほど、売上規模は小さくなり、相対的なコストは大きくなる。しかし、セグメントを大きくし過ぎると、誰にもフィットしない商品になるかもしれない。ちょうど良いサイズのセグメントを見極めることを「戦略的セグメンテーション」と呼ぶ。
マイケル・ポーターは、「自分たちは何で戦うのか、どんなポジションをめざすのかを明らかにせよ」と主張した。そして、『競争の戦略』において「戦略3類型」を提示した。企業が競争に打ち勝って利益を上げうるための「位置取り(ポジショニング)」は、大きく3種類に分けられる。これは著者によると、「ターゲット」と「バリュー」の組み合わせにすぎないという。
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