本書は3章構成で、第一章では神山町を語るうえで欠かせない36のスポットやプレーヤーが紹介されている。地図や写真付きで各名所が紹介されており、まるで旅行ガイドのような面白さがある。
刻々と変化する神山では新しいスポットが急増している。最初に紹介されているのは「梅星茶屋」だ。「梅星茶屋」は、曜日によってオープンする店が違うシェア食堂で、火・水・土のランチはパスタ中心のカフェ「イレブン」、木曜夜は広島焼き屋の「かばちや」、金曜昼は地元のお母さんたちが運営する500円ワンコイン食堂「梅星」が営業している。もともとは週1回のみ開いていたのだが、地元のNPOグリーンバレーが手掛ける求職者支援訓練「神山塾」の卒業生が将来自分の店を持つ準備のために「梅星茶屋」を借りるようになった。
神山には地元民に愛されるお店だけでなく、県外からの客も多いパン屋「薪パン」やビストロ「カフェ・オニヴァ」など、個性あふれる飲食店が多い。
サテライト・オフィスも新しい名所だ。徳島県は県内全域に光ファイバーが整備されており、実は神山は全国屈指の通信インフラを誇っている。
名刺管理サービスのSansanが遠隔ワークの実施地として2010年に開設した、サテライト・オフィス第一号「Sansan神山ラボ」や、メタデータ(テレビ局などが業務用に使う番組詳細情報のこと)を運用配信する「プラットイーズ」が空き家を取得して改修した「えんがわオフィス」には県外からの視察者が絶えないという。
昔からある名所も来訪者を受け入れるためにその姿を変えている。穀物の神を祀る神社が山腹に鎮座している「大粟山」は、海外のアーティストが作った作品を楽しむことができる野外美術館だ。NPOグリーンバレーのメンバーが営む洋品店「岩丸百貨店」は、移住者と地元住民をつなぐ役割を果たしているという。
最新スポットがメディアからは注目されがちだが、本書はもともと神山町にある店や場所にも光をあてることで「神山」を立体的に描き出している。
自然に優れた場所は他にもある。ITインフラが整った田舎は神山だけではない。にもかかわらず、なぜ人々は神山に集まるのか。第二章では移住者の物語を通じて神山が選ばれる理由の核心に迫る。
最初に紹介されているのは、神山のサテライト・オフィスの一つである「えんがわオフィス」を開設した隅田徹の物語だ。
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