風呂敷包みを抱いた女性が、制服を着た中学生くらいの女の子と、小学校低学年くらいの男の子を連れて搭乗した。大事そうに抱えている様子から、包みは遺骨のようだ。隣が空席だったので、「隣の席が空いておりますので、お使いください」と声をかけると、女性は涙ぐみながら、遺骨が子供たちの父親のものであることを明かした。
上空で「お寒くないですか?」と声をかけると、女性は「ご親切に恐れ入ります」と涙ぐみ、女の子も「ありがとうございます」と涙声で答えた。そのとき、「大丈夫だよ」と声が聞こえた。お姉さんの隣の席に座った、野球帽をかぶった小さな男の子だ。「お父さんと約束したんだ。お父さんが病気になったとき、『お父さんがいない時は、お前がお母さんとお姉ちゃんを守るんだぞ』って。僕『うん。わかった』って言ったんだ。だから大丈夫だよ」。
男の子の母親は「ありがとう。よろしくね」と涙を浮かべて微笑んだ。通路を挟んで隣に座っていた老夫婦が「偉いな、坊や」「頑張ってね」と声をかけた。「うん」と元気に答えた男の子をふと見ると、自分のももをつねっている。お父さんとの約束を守るために、人前で泣いてはいけないと思ったのだろう。小さな大黒柱が、たくましく見えた。
先日、八丈島から羽田に向かうプロペラ機に、乗客として搭乗した。何気なく首にしていたペンダントを外し、汗を拭き取り始めたとたん、機体が大きく揺れ、手に握りしめていたペンダントを座席の間に落としてしまった。CAや周囲の乗客も一緒に探してくれたが、見つからない。焦っていると、「到着してから必ずお探しいたしますのでご安心ください」とCAが声をかけてくれた。
着陸後、全乗客が降りるなり、整備士たちが乗り込んで来て、丹念に座席付近を探してくれた。やはり見つからない。すると整備士たちは、ひとつずつネジを外し、座席を分解し始めた。座席シートを外すと、狭い座席のすき間にペンダントが落ちていた。受け取ったとたん、涙が溢れた。それは昨年の春、交通事故で亡くなった息子の形見だったのだ。息子は、自動車会社に技術職として就職が決まっていた。生きていれば、目の前の整備士たちと同じように、つなぎを着て活躍していたことだろう。「また、ぜひご搭乗ください。一生懸命整備して、お待ちしていますから」。力強く言ってくれた若い整備士の姿に息子の顔が重なって、まるで息子がつなぎを着て働いているように見えた。
とても暑い日だった。CAとして乗務する釧路便に、70代の男性と、孫らしき二人の男の子が搭乗してきた。丹頂鶴を見に、釧路湿原へ向かうという。二人の男の子は窓の外を眺めたり、観光ブックを読んだり仲良く過ごしていたが、やがて口げんかを始めた。
3,400冊以上の要約が楽しめる