アガワさんが聞いたところによると、近頃、後輩を叱れない人たちが増えているらしい。へたに叱りつけて過度に落ち込ませては面倒だし、などといろいろと気を回しているうちに、タイミングを逃してしまう。ややもすればパワハラと言われてしまうこともある。
若い人たちも叱られ慣れていないらしく、怒られるとびっくりして泣き出す人もいるという話だ。新人の男性社員に「もっと元気よく挨拶をしなさい」といったら、出社しなくなってしまったというケースもあるのだとか。
だが一方で、何も注意されないと、若手はこれでいいのだと思って仕事をするせいで、良くない状態がなかなか改善しなかったりもする。
叱り、叱られ慣れなくなったせいで、世の中の風潮は「誉めて育てる」方向に偏ってしまったのかもしれない。
ある女性社長は、「今は誉める技術のほうが盛んに取り上げられるけれど、私は誉める前にまず叱り方が問題だろうと思うんですよ」といったという。
彼女は、叱るときのルールを自らに課したそうだ。「叱るのは一回だけ。何度もしつこく叱らない」。
その信念をもって部下と向き合うのだが、ドキドキするし、叱ったあと、眠れない夜もあるという。今の世の中、叱ることは、なかなか難しいことになっている。
あるレストランで、アガワさんたちは食事をしていた。そこへ、とてもうるさい客がやってきた。6~7人の男女のグループで、ときどきは自分たちの会話が聞こえなくなるくらい騒がしい。なかなか注意できずにいるうち、彼らは帰って行った。
その直後、お店のスタッフ数人が、ホール中のテーブルをまわって謝り始めた。本人たちを叱ってくれればよかったのに、と、どうもモヤモヤが残った。
別のある日、アガワさんは、笑い声のとても大きな友人と食事をしていた。注意はしているものの、お酒が入るにつれて、いつのまにやらガッハガッハと笑い出してしまった友人。そこへ、ウエイターの若者がやってきて、腰をかがめてビシッと囁いた。「もう少し、静かにしてください! 他のお客様にご迷惑です!」きっぱりはっきりしっかり、叱られてしまった。
心で泣き、猛省するとともに、アガワさんは見事な叱り方に感動すら覚えたという。
友人の女性編集者が叱り方の極意を教えてくれたという。「借りてきた猫」というものだ。
「か……感情的にならない
り……理由を話す
て……手短に
き……キャラクター(人格や性格)に触れない
た……他人と比べない
ね……根に持たない
こ……個別に叱る」
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