2016年、Twitterの無名アカウントから発信された「保育園落ちた 日本死ね」というツイートが拡散され、国会での議論の対象にまでなった。有名人でも学者でもない普通の女性のツイートが国を動かすきっかけとなったのだ。私たちは今、そんな奇跡が普通に起こる社会に生きている。
「保育園落ちた 日本死ね」は、シンプルだが強力なコピーだ。「保育園落ちた」というファクト(事実)があり、「日本」という「建前だらけの大きい敵」を倒したいという意志が伝わってくる。しかも「死ね」というインパクトある言葉との組み合わせだ。一般人の生活からあふれ出た魂の言葉として、強い力を持っていた。
言葉は武器だ。社会現象を起こし、世の中を変えることさえできる。たとえば、「イクメン」という言葉ができたことで父親の育児参加が促進された。「おひとりさま」という言葉によって孤食の市場ができた。
問題や事象について語りたくても、うまく言語化できない人もいるだろう。そんな人は、スタンスを決める→本質をつかむ→感情を見つめる→言葉を整えるというプロセスをたどってみるといい。最初はうまくいかず苦労するかもしれない。言葉を使いこなすには練習が必要なのだ。
まず、スタンスを決めること。自分の社会における立ち位置と世の中の動きに対する好き嫌いを明確にしよう。社会がどう変われば自分が快適にストレスなく生きられるかを考えると、自然とクリアになるだろう。
地方都市の市役所で働いているなら、日本のSNS炎上社会についてどう思うか。4人の子どもを育てるシングルファーザーなら、今の働き方改革についてどう思うか。自分のスタンスが見えてこない場合は、ニュースを幅広く見てみると、気になること、感じることが見えてくるはずだ。
次に、本質をつかむこと。表面的な現象ではなく現象の構造をつかみ取ることだ。そのためには、固有名詞を省いて時系列も無視して、行為と現象と関係性だけを抜き出すというプロセスを踏めばいい。慣れれば一瞬でできるようになる。
次に、感情を見つめること。問題の本質をつかんだ後は思いっきり自分に目を向けよう。人の心を動かすのはいつだって感情である。
問題の本質をつかんだら、自分のスタンスと照らして、どんな感情を抱いたか冷静に観察する。喜怒哀楽の4パターンだけではない。ワクワクした、ムカついた、誰かに伝えたくなったなど、様々なグラデーションがあるだろう。
自分の感情を見つめた後は、その感情を抱いた理由を考える。腑に落ちるまで、徹底的に自問してみる。
最後に、言葉を整えること。ここまでのステップで生み出された言葉を、相手やその場の雰囲気に合わせて調整する。相手に残したい印象によって言い方を丁寧にしたり、ネガティブをポジティブにしたりして、整えていく。
言いたいことがありすぎて、言葉が出てこない人もいるだろう。大切なものを聞かれても、「もちろん仕事も大事だし、家族も大事にしてるし……」と優先順位をつけることができない人だ。そういう人は、「言葉で順位づけ」をする必要がある。
まず、思いついたことを言葉にして紙に書き出してみる。一つひとつの要素を書き出して、言葉の因数分解をしていくと、思考の輪郭が明確になる。それを言葉にし、具体的に検討していけば、自分にとって本当に重要なこととそうでないことが見えてくる。
また、すべてを話そうとしてはいけない。優先順位をつけたり、割り切ったりすることも大事だ。映画の感想を聞かれたとき、「あのシーンもよかったし、CGもきれいだったし、テーマにも共感できたし」と並べると印象は薄くなる。それなら1つだけに絞って「あのシーンはよかったです。なぜかというと~」と掘り下げて話すほうが、相手の関心を引きやすいだろう。
伝えることを1つに絞ると、インパクトが増す。人間は、そんなにたくさんのことを覚えてはいられないものだ。
著者は、ネットの記事やツイッターでバズらせるために、言葉選びにおいて気を付けているポイントが4つあるという。それは、(1)「短くシンプル」か、(2)「意外性」があるか、(3)「学び」があるか、(4)明日から「すぐにやれる」かだ。
たとえば人脈についてインタビューされたとき、著者は「会いたい人こそ、自分から会いに行ってはいけない」と答えた。短くシンプルな回答だ。だが著者には、この1行が見出しになり、その記事が多くの人に読まれるであろうということが予想できていたという。
この言葉は、意外性がある。SNSでどんな大物とも簡単につながれる時代なのだから、自分から積極的に会いに行こう――そう言われることが多い。一方、著者は、まずは相手にとってメリットのある人物になって、先方から会いたいと言われるようにならなくてはならないと考え、この表現を選んだ。
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