納期の前に成果物をもらって嫌がる人はいない。仮に要求水準に達していなくても、やり直しができる。よって、仕事が速いと、周囲から仕事ができると思われやすい。この「Speed is Power」は本書のテーマにもなっており、それを実現するスキルが「数字で考える」力だ。
現状を数字で把握し、正しい方法で改善するには、次の3つの考え方が役立つ。1つ目は、扱いやすい大きさに分ける「因数分解」。2つ目は、優先すべき仕事かどうか見極める「ROI思考」。そして3つ目は、ゴールから逆算して考える「仮説力」だ。3つの考え方を順に紹介していこう。
生産性が高い人は、仕事を「納期」だけでなく、「工数(タスクにかかる見積もり時間)」も管理している。たとえば資料作成ならば、設計、資料収集、ドラフト作成、レビュー、修正・完成などと、大きなタスクを分解して、小さく分けていく。そして、それぞれに要する時間を把握することで、タスクの取捨選択や分担を可能にする。この作業を著者は「因数分解」と呼んでいる。
人生という限られた時間を考えると、やるべき仕事に順番をつける必要があることは明らかだ。その判断の指標がROI(Return on Investment)である。仕事をリターンと投資で考え、やるべき仕事なのかどうかを確認する「ROI思考」の出番となる。ROIの値が小さければ、やらないという決断もありうる。
ROIを把握するには、「フェルミ推定」が有効だ。日本全国の電柱の数を考えるとき、一定の面積あたりの電柱の本数から考える方法もあれば、企業数と家庭数から推測する方法もある。フェルミ推定のポイントは、より多くのシナリオから、精度が高く簡単に計算できるものを短時間で見つけることだ。目の前の仕事のROIをフェルミ推定で判断できれば、無駄な仕事を減らし、仕事の速度を上げられる。
やるべき仕事が明らかになったら、課題をどう分析して、どのような結論を導くのか、「仮説(シナリオ)」を立て、様々な観点から比較していく。
たとえば、「営業の人数を増やさずに売上5%をアップさせる」というケースで考えてみよう。仮説を考える際、「社内」「社外や市場」といった比較の軸を想定するとよい。そのうえで、「(違うエリアの)組織で比較する」「商品ごとに比較する」「営業担当の年齢や階層で比較する」「市場の変化と比較する」などと細分化する。できる限りこの軸を多く設定することが、適切なソリューションに近づくコツだ。
また、実際に比較分析を行う前に、「特定の営業担当群×特定の商品群についての勉強会をして営業力の底上げをする」などと、最終的なアクションをイメージしよう。そうすれば、把握すべき具体的な情報(誰に、何を、誰が教えるのか)が明確になり、分析に必要なシナリオができあがる。その後、たとえば「どのエリアに課題があるのか」といった点について、必要なデータを入手し、絞り込んでいく。
こうして導き出された施策をプレゼンテーションする際には、わかりやすいグラフを意識したい。具体的なポイントは、グラフのタイトル部分に最も伝えたいことを書く、比較対象をわかりやすく表示する、実際に差異がある場合は強調したい点をはっきりさせるの3つである。
数字ですべてがわかるわけではない。正しく数字を使って7割程度の真実を把握し、残り3割を定性情報で補うようなバランス感覚が重要となる。数字の裏を読み、定性情報を活用するために3つの考え方が役に立つ。それは、「平均と分散」、数字の背景を探る「想像力」、そして「選択肢を増やして絞り込む」という考え方だ。
まずは、データを取り扱う際によく用いる「平均値」だが、平均のもとになっている分散の数値を知らずに扱うと、事実を見落としてしまう。たとえば、ある組織の営業マンの月間平均売上が380万円だとしよう。もしも半数の売上平均が500万円前後、残りの半数が100万円前後と真っ二つにわかれていたらどうか。平均値としての380万円は数字的には正しいが、「売上380万円」の人間は存在しておらず、全体を代表していないのだ。平均と分散の数値はセットで確認しておきたい。
数字を見る際には、日ごろ見聞きしている現場の話や自分の感覚も忘れてはいけない。
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