日本酒は米、水、麹を原料に造られる。米は全国各地で900種以上が栽培されているが、そのうち酒造りに特化した米を「酒造好適米」といい、120種以上の銘柄がある。米が違えば当然香味は異なるが、同じ米を使っていても、同じ味わいの酒になるとは限らない。たとえば「精米歩合」と呼ばれる精米の度合いによっても、香味は変わってくる。精米の度合いは、食用米の場合90%程度だが、酒造りに使う米は少なくとも70%、吟醸酒では60%に規定されている。吟醸酒でいえば、米の表面を40%削るということである。
また、水が違えば飲み口も変わってくる。酒造りに使う水は「仕込み水」と呼ばれ、日本酒の成分の8割を占める。水に含まれるミネラルの含有量によって、味は大きく左右される。ミネラルが豊富に含まれる硬水ではどっしりした辛口に、軟水では口当たりの軟らかい甘口の酒になる傾向がある。加えて、アルコールの発酵には酵母が必要になるが、この種類によっても香りは異なる。
さらに興味深いことに、米の品種、精米歩合、仕込み水、酵母が同じであっても、造り手が変われば味わいも変化する。杜氏と呼ばれる酒造りの最高責任者は全国各地におり、それぞれに流派がある。流派によって酒造りは変わるし、同じ流派でも造る人によって味は違う。酒は造り手の人格を反映するものなのだ。
日本酒とは非常に繊細な手造り製品である。製品としてできあがったあとも、保存状況により熟成されたり劣化したりする。さらには冷酒、常温、人肌燗、ぬる燗、熱燗と、飲む温度にも風味が左右される。柔軟性に富んだ、奥深いアルコール飲料といえる。
「山田錦」は酒造好適米の最高峰とされ、酒米の王様とも呼ばれる。生産量の約8割を兵庫県が占めており、全国新米鑑評会で金賞を受賞する酒の多くは、山田錦によって造られている。山田錦は一般米に比べて高額で、その価格は実に食用米の2.5倍だ。茎が長いため倒れやすく、病害虫に弱いため栽培が難しいとされている。通常の米よりもタンパク質と脂質が少ないのが特徴だ。
この米のすばらしさをアピールする蔵元のひとつが、兵庫県姫路市に蔵を構える醸造元、本田商店である。本田商店では「龍力」という酒を造っている。同じ山田錦でも、収穫地によって品質が違い、超優良地帯である特A地区から順にC地区まで分類されている。本田商店では、最高級品である特A地区の山田錦だけを「龍力」に使用し、ぜいたくにも高精米して使う。
また「龍力」の「純米大吟醸 秋津」は、特A地区産のなかでも最高級の山田錦を使用している。出穂までに肥料を消化させる「への字型栽培法」を採用し、稲木掛け乾燥で仕上げる。これを高級路線として展開し、フランス・ブルゴーニュの高級ワインにも匹敵する価格設定で、海外でも勝負している。
吟醸酒とは、精米歩合60%以下の高精米された米を、10度前後の低温で1カ月ほどの時間をかけて発酵させたものを指す。この製法を「長期低温発酵」と呼ぶ。先にも述べたように、精米歩合60%以下というのは、表面の40%を削り落としていることになる。米の表面付近には、雑味になりやすい成分が含まれており、一般的に削る割合が大きいほどクリアな酒になると言われている。ちなみに大吟醸酒は、表面を50%以上削った米から造られている。
吟醸酒には高級なイメージがあるが、それはこのような手間と時間がかけられているからである。ところが出羽桜酒造は、消費者が気軽に手に取れる吟醸酒を売り出している。しかも大規模な酒造であるにもかかわらず、出羽桜酒造は昔ながらの手作業で酒造りをしている。
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