ここ数年、「郵便局の保険押し売り問題」が大きなニュースとなった。郵便局員が、高齢者をターゲットに、顧客の不利益となるような保険を販売していた問題だ。
郵便局員は、なぜそこまでして契約を取る必要があったのか。その背景にあるのは、過剰なノルマだ。
ノルマ営業による不祥事の根本原因は、営業戦略自体ではなく、時代に合わない経営戦略やビジネスモデルにある。会社の経営戦略そのものが破綻しているから、営業成績が上がらないのだ。
たとえば、今や金融商品はコモディティ化し、対面取引でもインターネット取引でも大差はなくなった。顧客にとって、対面販売コストが手数料に上乗せされる証券会社ではなく、人件費が掛からない分、手数料を抑えられるインターネット証券を選ぶのは当然だ。実際、インターネット証券のシェアは右肩上がりで、2018年10月から2019年3月の期間では23.6%を占めるまでになっている。
旧来型ビジネスに固執した企業は、時代遅れのビジネスモデルのまま、人員を解雇することもできず、結果的にノルマ営業戦略を頼らざるを得なくなっている。それが不祥事につながる構造なのだ。
企業が過剰に人員を抱え、営業担当者たちに時代遅れのノルマ営業を課しているのは、かつての「大量生産・大量消費」モデルの名残だ。大量生産された在庫を消化するために、顧客の購買意欲を煽るような手法をとっていたのだ。しかし今や、この手法も限界に達している。
たとえば、新規顧客とのファーストコンタクトを、いまだに多くの企業が「飛び込み営業」や「テレアポ」に頼っている。だがテレアポの成功率は極めて低く、非効率なだけでなく、担当者のメンタルに与える影響も甚大だ。「される側の79%、する側の74%が『無駄がある』と感じている」というデータもある。こうした営業手法によって生まれる経済的損失は決して小さくなく、次第に淘汰されていくことは間違いないだろう。
世界を見渡すと、従来の非効率な営業活動を減らす事例が出てきている。
その一例が、アメリカの電気自動車専門のベンチャー企業「テスラ」社だ。同社は2017年にGMを抜き、時価総額で全米ナンバーワンに躍り出た。商品の独自性はもちろん、まったく新しい経営形態を実現していることも、テスラ社の強みだ。
テスラ社の車種はたった6種類しかない(2020年1月時点)。一方、テスラ社と企業規模が近い日産自動車の車種は、50種類を超える。日本企業は今、「大量生産・大量消費」の戦略を考え直すときに来ているのではないだろうか。
テスラ社の成長の源泉は、ユーザーが得られる「体験」「感動」を想像して製品やサービスを開発する「エクスペリエンス優先型の発想法」を取り入れていることだ。
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