本書の著者であるロバート・アイガー氏は、キャリアの最初の22年を全米ネットワークテレビ局のABCで過ごし、1995年から23年はディズニーに勤務した。そして15年間ディズニーのCEOを務めて、2020年2月に退任した。
誰もが知るグローバル企業であるディズニーの経営は、著者にとって、楽しい体験を作り出す「世界一幸せな仕事」だ。本書は著者の経験を時系列で紹介しながら、彼が学び、実践してきたリーダーシップについて解説している。
著者のリーダーシップの原則は、次の10項目である。前向きであること、勇気を持つこと、集中すること、決断すること、好奇心を持つこと、公平であること、思慮深いこと、自然体であること、常に最高を追求すること、そして誠実であることだ。
著者はアメリカの裕福とはいえない家庭に育ち、イサカ大学を卒業後、1974年にABCに入社した。担当していたのはスタジオで制作されるすべての番組の雑用で、ABCの中で最も賃金の低いポジションだった。
ABCでの仕事は厳しいものだったが、このときの経験によって勤勉さが身についた。また朝4時半にスタジオ入りする日々を続けていたおかげで、今も毎日早朝に起きている。朝のひとりの時間が、生産性と創造性の向上に役立っている。
ABCスポーツに移ったことが、著者の人生を大きく変えた。当時のABCスポーツは局内のドル箱部門で、さまざまなスポーツの選手権を取材するために、世界中を飛び回ることができた。そのトップがルーン・アーリッジ。著者が強い影響を受けた人物だ。
ルーンは初めてテクノロジーでテレビ放送に革命を起こした人物で、イノベーションへのこだわりが強く、常に視聴者の注意を引きつける新しい手法を探していた。イノベーションを起こさなければ死んでしまうこと、完璧をとことん追求し続けることは、ルーンの教えであり、ずっと変わらない著者の指針である。
1985年には、34歳でABCスポーツのバイスプレジデントとなった。ABCはその後まもなく買収される。新しい経営者であるトム・マーフィーとダン・バークとの出会いが、著者の人生をふたたび大きく変える。
2人に認められた著者はどんどん出世していき、ABCエンターテイメントの社長として、エンターテイメント部門の再建を任せられる。もちろん当時、エンタメの経験などなかった。まさに崖から飛び降りる気分だ。
エンターテイメント部門を引っ張っていくために、優秀な2人の部下に常に教えを請うた。知ったかぶりをせずに自分が何者かを知り、誰かのふりをしないことは、真のリーダーであるために必要なことの一つだ。
ドラマ『ツイン・ピークス』の放送は、大きな賭けだった。当時の全国ネットで流すには奇妙で暗すぎるドラマを、パイロット版を見たエグゼクティブやモニターたちの反対を押し退けて放送したのだ。イノベーションを起こさなければ死ぬという、ルーンの教えが背中を押してくれた。
著者は賭けに勝ち、『ツイン・ピークス』は大成功。それまで業界からの信頼もなく、知り合いもほとんどいなかった著者だが、ハリウッドでの評価が急上昇し、新たな人脈も構築できた。
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