本書では、「志」を「一定の期間、人生をかけてコミットできるようなこと」と定義している。解説を含めて言い換えると、2~5年程度の期間に、意志に基づいて自分の時間や意識を傾けて取り組むこと、を指している。
生涯をかけて取り組むような崇高な目標が大志だとすれば、本書で取り扱うのは小志といえるであろう。はじめに大志ありき、ということはよく言われるが、今回行った調査では、最初から大志をもって生きているという人はほとんどいなかった。つまり、なかなか難しいことなのである。しかし、大志がないから志がないとあきらめてしまわないでほしい。小さい志を積み重ねることが大きな志につながっていくと考えて、まずは自分の小さな志を見つけてみよう。志の成長を通じて、より実りの多い人生を歩む可能性が高まるし、個々人の志の成長は社会にとっても新しい価値をもたらす可能性が高いのだから。
本書のベースとなっている調査研究は、さまざまな分野で活躍する、さまざまな年齢、性別、ポジションの32名を対象にグロービス経営大学院で実施された。アンケート調査とインタビューから得られた個人の生の体験を紹介しつつ、考察をすすめていこう。
インタビューを通して、ほぼ全員にいえたことは、「紆余曲折を経て、『志』も少しずつ変化をしながら『成長』していく」ということだった。
具体的には、「志」は5つのフェーズからなるサイクルを1サイクルとして、サイクルを終えるごとに一段階成長するというモデルをあてはめられることがわかった。らせん階段のようにぐるぐる回りながら上に行くイメージだ。
5つのフェーズとは、①達成への取り組み、②取り組みの終焉、③客観視、④自問自答、⑤新たな目標の設定、である。
まず、あるきっかけで、人生最初の目標設定をする。これがゼロ地点となる。自らの意志で「一定期間、人生をかけてコミットできるような目標」を設定できた瞬間を「初めて志が生まれた瞬間」とする。
こうして新しく目標が生まれると、①達成への取り組みという実行のフェーズに入る。
次に、活動自体が本人の意向によらず終了したり、もしくは本人にやりきったという実感が生まれたり、別の目標が生まれたりする状況によって、②取り組みの終焉が訪れる。本人がもともとコミットする期間を定めている場合もあるだろう。
そしてその後に訪れる③客観視のフェーズこそが、「志」のサイクルを成長させる大きな肝となることが多い。取り組みの終焉を迎えたとき、インタビュー対象者の多くが、ふとしたタイミングで自分を見つめなおしている。あるシンクタンクに勤めていた、当時30代のあるビジネスパーソンは、社内の引っ越しの際、自分が書いてきた報告書の数をかぞえる機会があったという。そこで初めて自分のやってきたことが、社会へどれだけのインパクトをもたらすことができたのか、と改めて考えることになったそうだ。
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