「デザイン思考」を提唱する世界最高のデザイン会社「IDEO(アイディオ)」。その創設者であり、本書の著者であるデイヴィッド・ケリーとトム・ケリーの兄弟は「人間はみんなクリエイティブだ」という信念を持っている。創造性は一握りの幸運な人々だけが持っているまれな才能などではなく、思考や行動の一部だ。それゆえに、人間は誰でも無限の創造性を秘めている。
また同時に、アイデアを実行に移す勇気を奮い起こさなければ、創造性の真の価値は発揮されない。そのためには、自分のしようと思っていることを実現できるという確信、すなわち「創造性に対する自信(クリエイティブ・コンフィデンス)」が必要である。つまり、アイデアを思いつく能力と、アイデアを実行に移す勇気の組み合わせが重要なのだ。本書はこのクリエイティブ・コンフィデンスを築くことを目的として書かれたものである。
創造性は芸術的な分野だけでなく、幅広く普遍的な分野で活かすことができるものだ。そしてクリエイティブ・コンフィデンスがあれば、問題解決のための新しいアプローチや解決策を生み出すことができる。
本書ではクリエイティブ・コンフィデンスを手に入れた人々の物語と手法が紹介されている。
画期的なイノベーションを起こすには、3つの要因のバランスが取れていなくてはならない。
ひとつ目は「技術的要因」で、新技術は莫大な価値を生み出す可能性を秘めており、新しい会社や事業部門を成功させる土台にもなりうる。しかし、画期的な技術だけでは十分でない。
ふたつ目の重要な要素は、経済的な実現性である。技術が機能するだけでなく、経済的に実現可能な方法で生産・販売できなければならないからだ。
そして、イノベーション・プログラムを成功させるための3つ目の要素は、人間のニーズを深く理解することである。単に人々の行動を観察するだけではなく、その動機や根本的な考え方を理解しなければならない。
GEでヘルスケアの設計と開発を行うダグ・ディーツは、自分が開発した新型MRIスキャナーが最高の技術と事業的な実現性を兼ね備えていた。だがあるとき、この装置が幼い子どもには不安と恐怖を与えるものでしかなく、鎮静のために麻酔が必要である事実を知り、人間中心のデザインとイノベーションのアプローチを取り入れることを決意する。彼は託児所の幼い子どもを観察し、専門家から小児患者の経験を教わるなど、幼い子どもがMRIスキャナーについてどう思っているのか、どうすれば安心感を抱いてもらえるかを理解しようと努めた。
幼い患者に共感したダグは、MRIを子どもの冒険物語に変えることで、この課題を解決した。MRIの装置一式を海賊船や宇宙船などにデザインし直し、幼い患者が冒険物語を楽しめるようにMRIの操作担当者向けの台本を用意したのだ。子ども向けにMRIをデザインし直したおかげで、鎮静の必要な小児患者の数は劇的に減ったという。ダグは、ある患者の「ねえ、お母さん。明日もこれに乗れるの?」という言葉でクリエイティブ・コンフィデンスを獲得することができた。
成功するイノベーション・プログラムは、デザイン主導のイノベーションの「着想」「統合」「アイデア創造/実験」「実現」という4つの段階的なアプローチを含んでいる。
3,400冊以上の要約が楽しめる