「弊社は人を大切にしています」とは、よく聞かれる言葉である。だが、「人材を大切にしている」といいながら、社員が不幸になってしまっているケースも多いものだ。
超優秀な社員が入ってきても、大きな成果を出せずにすぐ退職してしまう。新卒社員が夢を抱いて入社しても、入社数カ月もすれば辞めていく。人を大切にしているはずなのに、なぜこのようなことが起きてしまうのだろうか。
その原因の一つが「期待値ギャップ」だ。期待値ギャップとは、社員が会社に対して抱いていた期待と、実際の働く環境や条件に差分がある状態のことをいう。そのギャップが大きければ大きいほど、不満が生まれやすい。そう考えると、「社員が期待する環境と、会社が提供する環境のギャップがない(少ない)会社」が「いい会社」だと定義できる。
企業は、事業戦略として「ビジネスモデル」を考えるように、組織戦略としての「カルチャーモデル」も考えなければならない。カルチャーが言語化され、社内外に共有されることで、企業と社員の間の期待値ギャップがなくなる。そして社員が会社に満足し、ロイヤルティ(忠誠心)高く働き続けてくれることが、企業の発展につながる。企業のカルチャーは、事業にも直接的に影響するのだ。
カルチャーは羅針盤のようなものだ。会社にとって何を優先すべきで、どのような意思決定をし、どんな戦略を立てるかの指針になってくれる。
たとえば、1年前に立ち上げた新規事業がうまくいかず、赤字を垂れ流していたとする。そんなとき、事業責任者はどうすべきか。「まだ見込みはあるから、なんとか頑張ろう」とハッパをかけるか、「傷が浅いうちに撤退して、新たなビジネスを検討しよう」と考えるか。
会社によって、導かれる答えは異なるだろう。「長期的な目線で考える」というバリューを持つ会社なら前者を選択するだろうし、スピード重視なら後者を選ぶはずだ。どちらが正しいということではなく、カルチャーに沿ったその会社らしい意思決定を、納得感を持ってすることに意味がある。
自社のカルチャーが浸透していれば、ギリギリの判断が求められるような場面でも、スピーディーに意思決定できる。意思決定後に「なぜそうするのか」を周知する必要もない。
変化の激しい時代、組織内のコンセンサスに時間をかけることはできない。カルチャーは、スピード感を持ってビジネスを推進するために不可欠だ。
カルチャーが対外的に最も影響するのは採用である。
かつては新卒を一括で採用し、自社のカルチャーに染め上げるのが一般的であった。社員も、多少理不尽なことがあったとしても「仕事とはこういうもの」と納得して仕事をしていた。一方、Z世代(1996〜2012年生まれ)と呼ばれる若い世代は、「自分らしさ」「個人」を大切にする。だからコストをかけて新卒採用しても、カルチャーに染め上げる前に退職してしまう。
彼らはインターネットで情報を収集して、大企業とスタートアップを同じ評価軸で見定める。企業側はSNSやオウンドメディアで発信し、会社の価値観やカルチャーに共感してくれそうな人を採用する。
ここでも期待値コントロールが重要になってくる。どんなに「私たちの会社はオープンかつフラットです」と発信していても、実情が伴わなければ、口コミサイトなどに書き込まれてしまう。「実はワンマンらしい」などという評判がたてば、せっかくのブランディングも台無しだ。会社に興味を持ってくれたはずの優秀な人は警戒し、採用につながりにくくなる。
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