サイボウズは、わがままは「楽しく働くためのヒント」であり、「社会を変えるかもしれないアイデア」であるとしてポジティブにとらえている。そして、わがままを引き出すことが、多様化した価値観へ対応するための競争力を与えてくれるとすらいうのだ。
戦後日本ではいわばみんなが「同じわがまま」を抱えている状態であり、ビジネスモデルは「大量生産、大量消費」が一般的であった。しかし、今は消費者の価値観が多様化し、みんなそれぞれ「違うわがまま」を持っている。今後は消費者それぞれのわがままに応え、対応できる企業だけが成長できる。だとしたら、社員のわがままはアイデアの宝庫だ。
サイボウズの代表取締役社長である青野慶久氏(以下、青野氏)はよく、出身地の愛媛県今治市で生産される「今治タオル」を例に社員のわがままの重要性を説明している。かつて日本のタオル生産量の半分以上を占めた今治タオルは、円高で工場が中国に移転すると、一転して生産量が落ち込んだ。変革の必要性を感じた今治タオルは、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を招へいし、「高品質なものしか作らない、多品種少量生産でいこう」という方針を固める。結果として、今治タオルの品質やブランド価値が高まり、生産量は少ないまま売り上げは飛躍的に伸びたのだという。
この成功の大きな要因は「わがまま」にあるというのが青野氏の解説だ。今治タオルの付加価値や販売戦略を考えるには、さまざまな人からの多様なアイデアが不可欠である。たとえば、「私はベビーグッズをつくりたい」と、現場でわがままを言う人が現れなければ、ニーズがあることにすら気づかなかったかもしれない。日本の社会は少子高齢化、人口減少に直面し、これまでの働き方や価値観では会社の競争力は落ちていくことが予想される。だからこそ、多品種少量生産や高単価に結びつく私たち一人ひとりのアイデア、すなわちわがままを競争力の源泉にし、社会を変えるきっかけにしていかなければならない。
わがままの力を引き出すためには、わがままという言葉から感じられる「自分勝手」という印象を変えていく必要がある。人はそれぞれ関心を持つ分野が異なる。わがままもこうした関心の一形態にすぎず、一人ひとりの「欲望」や「理想」の現れである。その人のわがままが実現することで、世の中もその人も幸せになるならば、わがままを言うことに何の問題もない。
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