人事をやってみたい人によくありがちな理由が、「人が好きだから」というものだ。しかし人が好きなだけで務まるほど、人事の仕事は楽ではない。退職勧奨に携わることや、耳が痛いことを社員に言うような、嫌われ役を買わなければならないこともある。また採用、教育、人員配置、会社のバランスを見て、社長と同じ視座で経営を担うことも要求される。すなわち応募者や社員の人生を背負うのが人事の役割であり、会社の「人」にまつわることの全責任を負う重要なポジションといえる。
人事は会社の「ど真ん中の仕事」であり、簡単に効率化できるものではない。泥臭く誠実に取り組むべき仕事である。
著者は採用の相談を受けた際、決まって「社内の状態はどうですか?」と聞き返す。この質問に対しては、「離職が多いから採用をしたい」という回答が多い。しかしそんな状態なら、採用をしている場合ではない。こういった会社では、会社への関心が薄れていたり、自分ごととして考えられない社員が多くなっている。そんな状態で新規採用をしても、採用された人はすぐに辞めてしまうだろう。それはつまり、出血しつづけているのに輸血しようとしているのと同義だ。まずは止血することに専念しよう。
ここでいう止血とは、社内状態の改善に取り組むことだ。たとえば人の粗探しをする風土を変えたいのであれば、1日1回、社員同士で良いところを褒めあう「褒め活」をすることも考えられる。人事の取り組みによって社内の状態が良くなれば、イキイキ働く社員が増え、その事例が採用活動にも繋がるはずだ。採用活動においては、社内と社外を同軸で見ていくことが重要である。
採用で人気のある人材は、決まって「地頭が良く、即戦力で、あわよくば経営も任せられる」というものだ。しかし、いくらスキルが高くてもカルチャーマッチしない人は絶対に採用してはならない。スキル重視で採用したものの、結果的にカルチャーに合わず、組織崩壊につながった事例は山ほどある。では、どうしたら自社にピッタリ合う人材を見出せるだろうか。
著者のすすめるやり方は「ビジョン型採用」だ。その会社がなにを目指していて、どういうことを大事にし、どの方向を向いているのか。これらをもとに、自社に合う人材の要件定義をしっかりと言語化していくべきである。さもなくば、「行き先を伝えずに乗りたい人を募る乗船」のような採用となってしまうだろう。
採用活動を行う際は、社長だけでなく、多くの社員を巻き込むことが大切だ。そのためにも、まずは社員のエンゲージメントを高めよう。具体的にはSlackやChatwork、Talknoteなどの社内SNSを活用し、社内コミュニケーションの活発化を促すべきだ。部活動グループをつくったり、雑談スレッドを立てて会話をシェアしたりと、社員同士の交流が増す施策を打ち出すのである。
交流の活性化によって会社に目がいく社員が増え、自社を知人友人に紹介したくなれば勝ちだ。「うちではサウナ部というおもしろい部活があるから、今度参加してみない?」――このような一言から誘った友人が入社する事例も出てくるかもしれない。
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