主人公のトム・コーラムが所属するザグラム社は、業界随一の成功企業だ。ライバル会社から1ヶ月前に転職を果たしたトムは、早朝から深夜まで仕事に励んでいる。高い集中力を発揮していることはもちろん、目標達成においても立派な成績を残してきたと自負している。妻には働きすぎだと呆れられ、文句を言われる日々だ。とはいえ、今後の昇進のチャンスではライバルに負けないよう、入社以来努めてきた。そんな自信にあふれるトムが、ザグラム社独自の研修プログラムを受けることになる。そこで副社長のバド・ジェファーソンは開口一番、トムにこんな言葉を投げかけた。「君には問題がある。当社で成功したいならその問題を解決しないといけない」。
恥じることは何一つないはずのトムは衝撃を受け、戸惑った。しかし、トムに問題があることは職場の同僚、妻や子供など、トム以外の周りの人はみな気づいているという。
例えばこんなことに身に覚えはないか、とバドはトムに尋ねた。子供と遊ぶ約束をしていたのに、直前になり適当な言い訳でやめたこと。もし遊んであげても恩着せがましく振舞ったこと。妻と共有している車のガソリンが切れそうだと気づき、給油する時間があったにもかかわらず、妻には自分より時間的余裕があるはずだと思い、そのままにしてしまったこと。職場でも、本心では部下を軽蔑したり無能だと思ったりしていること。聞こえがよいことを言ってうまくコントロールしていること。
こうした例から言えるのは、トムが自分の周りの人を「我慢」するべき対象だと感じているという点だ。バドは続ける。「そう思うことが、実は私たちが自覚するよりもはるかに大きなダメージを家庭はもちろん会社にも与えているのだ」と。
バド自身も、過去のプロジェクトでの失敗を例に出しながら「自分の問題」について語っていく。とあるプロジェクトに参加していたときのことだ。バドはまだ生まれたばかりのわが子を残して、遠い地でそのプロジェクトに参加していた。しかし、家族のことが頭から離れなかったため仕事への集中力を欠いてしまう。また、周りと積極的に関わろうとしなかったために、情報不足で全体の見通しを把握できていなかった。たとえ一生懸命やっていたとしても、独りよがりの行動が他の人たちに迷惑をかけることがあったのだ。
周りに迷惑をかけた以上に重大なことは何だったのか。それは、自分が「問題」を抱えていることに、バド自身が全く気づけていなかったことだ。
この重大な問題とは、「自己欺瞞」である。これは「箱の中に入っている状態」と表現できる。
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