「やりがい」「年収」「企業のブランド力」「勤務地」「福利厚生」・・・。就職活動の際に、志望企業を絞り込む優先順位は人それぞれだろう。だが、理工系学生は、いまだに技術者としてのやりがいを重視する傾向がある。多くは自分の専攻や研究テーマに近い企業を選ぶのだ。
著者は化学を専攻していたため、就職先として第一希望は化学業界だったが、オイルショック後の採用数縮小から、化学業界以外にも目を向ける。指定校推薦が活用できる企業の中で目がとまったのがホンダだった。
創業者である本田宗一郎は、「得手に帆上げて」「能ある鷹は爪を出せ」「技術論議に上下関係はない」という考えを持っており、その自由な社風に惹かれ、著者が志望するに至る。
役員面接では、「どんな仕事がしたいか?」と質問され、「環境に優しい電気自動車の開発に携わりたい」と回答。ほどなくして採用通知が届く。
ホンダとサムスンの違いは、入社後の新入社員研修にも存在する。著者が1978年にホンダに入社した当時、ホンダの新入社員研修は丸1年で、寮での共同生活が基本だった。研修内容は文系社員が3拠点での工場実習、理系社員が2拠点での工場実習と4カ月半の研究所実習を行っていた。
研究所への配属を希望していた著者にとって有意義だったのが、研究所での実習だ。テーマは当時開発が急務だった自動車用排ガス触媒であり、化学の専攻も活かせることから、研究に携われる喜びは大きかった。
研究成果として役員に対して行った発表が好評だったこともあり、埼玉県和光市にある研究所に配属されるだろうと気を良くしていた。それが配属先の希望により、製作所への配属という結果になるのではあるが。
その後新入社員研修の内容は変化し、著者が管理職となった92年当時、800人もの大量採用をしていたこともあり、研究所実習はなくなり営業研修が加わった。ホンダ製品の販売に直接関わることで、ホンダ製品の魅力や課題などに関する消費者の声が体得できるものだ。顧客目線を実感するためにも、このプログラムは有意義だろう。
これに対して、サムスングループにおける新入社員研修の目的はより明確だ。新入社員研修はグループ全体で実施され、今後永遠に続くサムスン社内での厳しい競争を研修で体感させるものである。あるテーマに沿って約1カ月間、企画構想から取り組み、最後にグループのCEOや役員幹部の前でその成果を発表するイベントが大々的に実施される。
著者も2006年6月にこのイベントに役員の立場で参加した。このイベントに参加する新入社員は大卒以上で、約1万1000人にも及んでいた。
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