欧米や東南アジアを中心に、「ディープテック」という言葉が広がり始めている。ディープテックとは、テクノロジーを使い、根深い課題(ディープイシュー)を解決していく考え方、活動を指す。
ボストンコンサルティンググループとHello Tomorrowが調査した、7つのディープテクノロジーカテゴリーへのグローバルな民間投資総額を見てみよう。すると、2015年~2018年の4年間で、総額が180億ドル(約2兆円)になったという。
本書では、ディープテックを次の5つのように定義する。(1)社会的インパクトが大きい、(2)ラボから市場に実装するまでに、根本的な研究開発を要する、(3)上市までに時間を要し、相当の資本投入が必要となる、(4)知財だけでなく、情熱、ストーリー性、知識の組み合わせ、チームといった観点から参入障壁が高いもの、(5)社会的もしくは環境的な地球規模の課題に着目し、その解決のあり方を変えるもの。
ディープテックでは、既存技術や眠れる技術が活きるケースが多い。具体例として、世界で最も生産されている植物油のパーム油が挙げられる。パーム油の大半は、マレーシアとインドネシアで生産されている。この生産過程において、パーム油を搾汁した後の搾りカスが、年間約540万トンも排出され、メタンガスを発生させる。これが環境汚染の元凶となっているのだ。
この問題解決に役立っているのが、日本の培ってきた技術だ。搾りカスを微細な繊維にし、インドネシアのディープテックベンチャーが開発した素材を加えた。これにより、鶏の餌に必要な成長促進剤の代わりとなる、「マンナン」を抽出可能にした。つまり、搾りカスが新商品となったのだ。
この事例のように、日本の「眠れる技術」が世界各国、とりわけ東南アジアのようなエマージングマーケットの社会課題解決に役立つ可能性がある。
ディープテックにおけるキーワードの1つが、副産物を意味する「バイプロダクト」である。その最たる例が、先述したパーム油の搾りカスの利用だ。
もう1つのキーワードが「decentralized(ディセントラライズド)」である。非中央集権型、分散型を意味する。ディープテックによるディセントラライズドが進む領域は、具体的には、水道や電気、交通手段などのインフラ領域が挙げられる。
従来こうしたインフラ整備は、国が中央集権的に担ってきた。たとえば、現在のガス管は、定期的に掘り起こして点検や補修を行わなければならない。しかし、地域によってはプロパンガスの方がコスト下がる。そして、スマートメーターでチェックすれば、運搬も効率的になる。このように、セントライズされたインフラより、ディセントラライズドされたインフラの方がサステイナブルになるケースを考える必要があるのだ。
ディープテックは、シリコンバレー発のテクノロジーイノベーションという歴史の流れの中に位置づけられる。シリコンバレーには、世界の時価総額トップ5の企業のうち4社が本社を置く。そして、巨額の資金がめまぐるしく循環している。スタートアップ、アクセラレーター、エンジェル投資家、インキュベーターなどのプレイヤーが集まり、世界最大のエコシステムを形成しているのだ。
一方でアジアも急伸している。すでに2018年には、VC(ベンチャーキャピタル)の投資額では、中国がアメリカを抜いている。また投資先でも、中国、インド、東南アジアのVC投資額は、全世界の半分を占めるまでになっている。
さらに、シリコンバレーでは、スタートアップの成長パターンの均質化が指摘されている。それは、Yコンビネーターをはじめとしたアクセラレーターにより、スタートアップが育つ環境が整備されているがゆえといえる。大企業から買収されるEXITをゴールとし、そこから逆算する「逆算型のスタートアップ」ができてしまう傾向にある。最初は斬新なアイデアを持っていたスタートアップも、EXITしやすい事業へと方向転換するケースが多発しているのだ。
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