まずは代表取締役の権限について見ていこう。
強気な〈肉食系〉取締役はこの点についてこう考える。「代表取締役になれば、何でも決定できる」。一方、〈草食系〉取締役は慎重に考える。「社外に対する重要な事項は、取締役会で決定しないといけないのでは」。さて、これらは正しいのだろうか。
本章では、代表取締役の権限がどのようなものかについて述べられている。
〈肉食系〉取締役が勘違いしていたように、一般に代表取締役は何でも自分で決定できる権限があると思われがちである。しかし、そんなことはない。法律によって株主総会の決議が必要と決められている事項についてはもちろん、さらに、定款や取締役決議などによって「株主総会または取締役会の決議を要する」とされた事項についても、勝手に決定することはできない。そして権限の範囲内にある業務についても、少なくとも三か月に一度は取締役会に状況を報告する義務を負っているのである。
つまり、代表取締役は大きな権限を持ちつつも、無制限に何でも決められるわけではなく、さらに権限の行使に問題がないか取締役会に監視されてもいるというわけである。
また、もう一点注意すべきことは、代表取締役の権限が制限されるとしても、その制限は実際の取引にどう影響するのかという問題である。先に述べたように、取締役会の決議などで代表取締役の代表権に制限を加えることがある。法律では、こうした場合にこの制限を知らない第三者にはそうした制限があったことを主張することはできないとされている。これはどういうことだろうか。
例をあげて考えていこう。ある会社が、取締役会の決議によって手形振出の権限をA代表取締役に専属させていたとする。そうした制限にも関わらず、B代表取締役が勝手に手形を振り出してしまった場合、どうなるか。B代表取締役に手形振出の権限がなかったことを知らなかった相手方に対して、会社は、「この手形は権限がない代表取締役が振り出したものなので無効である」として支払いを拒むことはできないということになるのである。第三者、つまり、外部の人からみれば、代表取締役は当然こうした権限を持っているはずだと考えられるからである。このため、制限があったことを知らない相手方を保護する必要があり、こうした決まりが作られている。
つまり、代表取締役の権限は、制限されることがあるとはいえやはり非常に大きいものでもあり、その影響力には十分気を付けなければならないのである。
このように、代表取締役の持つ権限については、誤りやすいポイントがいくつかある。この章では、ここで紹介した以外にも大事なポイントを取り上げ、わかりやすく解説してある。
個人情報の保護についての法律問題も解説されている。
ここでも二人の取締役の会話から解説は始まっていく。個人情報の漏洩リスクについて、強気な〈肉食系〉取締役がこう言う。
3,400冊以上の要約が楽しめる