今や、際立った「個」がないと生き残れない時代だ。では、「個」がない人はどうすればいいのか。そんな人は「相手をよく知り、その期待に応える」生き方を選べばいい。相手を知り、相手が何を求めているかに思いをめぐらせて、全力で相手が求めていることに応えるのだ。本書ではそんな生き方を、相手ありきの活動であるマーケティングにたとえ、「マーケターのように生きる」と呼ぶ。
著者はソフトバンクの広告部門で働き、ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディ、ヤフーなどでマーケティングに携わってきた。講演や研修を依頼されることも多く、2019年は年間30回以上、人前で話している。「NewsPicksアカデミア」のプロフェッサーや業界イベントのボードメンバーも務めてきた。
実は、著者がこのように活躍できるようになったのは、自己主張や自我を抑え、「相手からスタートすること」を意識するようになってからのことだ。
著者は高校時代にギターに出会い、大学生になるとバンド活動に打ち込んだ。当時の著者にとって、音楽はあくまで「自分を表現する手段」であり、聴く人のことは何も考えていなかった。しかしそんな傍若無人が許されるはずはなく、バンドが日の目を見ることはなかった。
著者は音楽に未練を残しつつ、派手な感じがする広告の仕事を選んだ。この仕事でも「自分を表現したい」という意識は抜けていなかった。思うような結果を出せない日々が続く。
ターニングポイントとなったのは、所属していた外資系企業で、本社から来日する幹部の接待担当になったときのことだ。このとき、接待は英語で「エンターテインメント」と呼ぶと知り、はっとした。エンターテインメントとは、相手を接待することなのだ。スタート地点はあくまで相手である。相手をよく知り、相手の立場に立って、自分たちにできる精一杯のことをしなければならない。
「相手からスタートする」ことの重要性に気づいてからは、目に見えて企画の成功率が上がった。人前で話すときは、聞き手が求めているものを意識するようになった。すると講演や研修講師の依頼が舞い込んだ。文章を書く際に読み手の視点を意識するようにしたところ、ブログが注目され、本の出版まで実現した。
著者はこのように、「相手からスタートする」マーケター視点を仕事以外に広げることで、人から必要としてもらえるようになった。そうして人生そのものを変えることができたのだ。
マーケティングを通して、相手の視点に立って価値を定義し、それをつくりだし、伝え、交換してもらうことで、自分も相手も物理的に、精神的に豊かになる。この思想を「生きる知恵」として生かそうというのが、本書の提案だ。
本書ではマーケティングを以下の4つのステップに分けている。
(1)市場を定義する:「自分がもっと輝く場所」が見つかる
(2)価値を定義する:「相手が本当に欲するもの」がわかる
(3)価値をつくりだす:「自分がやるべきこと」がわかる
(4)価値を伝える:「自分を必要とする相手」に見つけてもらう
ステップ1の「市場を定義する」は、価値を提供する相手を決めることだ。誰を相手にすれば、自分を最大限に生かし、もっとも多くの人に自分を役立ててもらえるかを考える。ここで重要なのは、「自分ができること」と「相手にできる人の多さ」のバランスをとることだ。
副業でYouTuberとして活動するとしよう。「マーケターのように生きる」のであれば、
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