フォン・ノイマンの哲学

人間のフリをした悪魔
未読
フォン・ノイマンの哲学
フォン・ノイマンの哲学
人間のフリをした悪魔
未読
フォン・ノイマンの哲学
出版社
出版日
2021年02月20日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

コンピュータや天気予報など、現代社会で当たり前に使われている多くの技術の礎を作った人物がいる。その超人的な頭脳から、「人間のフリをした悪魔」と呼ばれた科学者、ジョン・フォン・ノイマンである。本書は、当時の時代背景やノイマンの学術的な功績、関わりの深かった人物などを紹介しながらノイマンの生涯を概観し、その中で「フォン・ノイマンの哲学」に迫るものである。

数々の功績を残しているノイマンだが、そのひとつに原子爆弾がある。アインシュタインをはじめ、多くの科学者がその威力に慄き使用をためらうなか、ノイマンは一貫して原爆使用の主張を貫いたという。彼は戦争の早期終結のため、日本人の戦意を完全に喪失させるのに効果的だとして、京都への投下を主張していた。都市の歴史的文化的価値から原爆は京都ではなく広島と長崎に投下されることとなったが、このエピソードからも、ノイマンの目的のためには手段を選ばない姿勢が見て取れるだろう。

このようなエピソードからは「マッド・サイエンティスト」のような印象を受けるが、書籍内で語られるノイマンの人物像は必ずしもそれに一致しない。人当たりがよく穏やかで、「ゲーム理論」を打ち立てた人物であるにもかかわらず、ギャンブルはめっぽう弱かったそうだ。

人間には多面性がある。一部分だけを見てどのような人物だったのかを判断することはできない。本書を通じて、ノイマンの科学者としての哲学に触れ、なぜそこに至ったのかに思いを馳せてみてはどうだろうか。

ライター画像
千葉佳奈美

著者

高橋昌一郎(たかはし しょういちろう)
一九五九年生まれ。ミシガン大学大学院哲学研究科修了。現在は、國學院大學教授。専門は、論理学・科学哲学。主要著書に『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    天才科学者ノイマンの思想を支えるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきという「科学優先主義」、目的のためならば非人道的兵器の使用も辞さない「非人道主義」、世界には普遍的な責任や道徳は存在しないという「虚無主義」である。
  • 要点
    2
    ノイマンは自身の哲学に基づき、原子爆弾を開発。多くの科学者と違い、その使用もためらわなかった。ノイマンが主張したのは京都への投下である。これが「日本の戦意を完全に喪失させ、早期に終戦させる」という目的のための最良の手段だと信じていたからだ。

要約

天才の誕生

10歳で大学レベルの数学を理解した「神童」
Givaga/gettyimages

ジョン・フォン・ノイマンは1903年12月、オーストリア・ハンガリー帝国のブダペストで生まれた。中央ヨーロッパは古くから紛争の多い地域だが、ノイマンが生まれた時代は幸運にも平和な時代だった。当時のブダペストは人口がヨーロッパ第6位の大都市で、景観が美しいことでも有名な街だった。

ノイマンは裕福な家庭に生まれ、兄と弟とともに英才教育を受けていた。ノイマンは並外れた記憶力を持ち、幼少期から数学に興味を持っていたという。当時、多くのハンガリーの上流階級でそうだったように、ノイマンはギナジウムに入学する10歳まで家庭内で教育を受けて育った。ギナジウムは10歳から17歳まで8年間の一貫教育を行う学校だ。ノイマンは入学直後から「習字」「音楽」「体育」を除く全科目で最優秀の成績を収め、神童と呼ばれた。このときからすでにノイマンの頭脳は同級生たちをはるかに超えていたが、それを誇示するようなことはなく、むしろ周囲から浮かないよう努力していた。この周囲への気配りは生涯続いたという。数学に関しては、入学直後からすでに17歳の最上級クラスでも簡単すぎたため、大学からノイマンのために特別講師が招かれるなど、その天才ぶりを発揮していた。

ギナジウム卒業後、ノイマンは17歳で、大学を飛び越えてブダペスト大学大学院数学科に合格する。以降は「化学ブーム」のさなかに父が進学先として勧めたベルリン大学応用化学科と両方に籍を置くこととなる。

天才数学者として名を馳せる

1920年代のワイマール共和国・ドイツは第一次大戦敗戦により、社会情勢が不安定になっていた。その悪影響を懸念した父の強い勧めにより、ノイマンはヨーロッパで最高水準と言われていたスイス連邦工科大学チューリッヒ校応用化学の編入試験を受け、合格した。スイス連邦工科大学は、アインシュタインが不合格となった超難関大学だ。ノイマンはブダペスト大学大学院数学科にも籍を置いたまま、どちらの学問も両立させた。スイス連邦工科大学チューリッヒ校応用化学科で応用化学の学士号を取得、さらに学術雑誌に掲載された論文「集合論の公理化」がブダペスト大学大学院数学科の学位論文として認められ、博士号を取得した。22歳で前代未聞の「学士・博士」となった「天才数学者ノイマン」はヨーロッパの数学界に知れ渡った。

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要約公開日 2021.05.16
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