どんな困難な目標があろうとも、それを達成するための戦略はシンプルになるまで作り込み、削り込み、磨き上げるべきものである。これが25年にわたりマッキンゼーで数々の企業参謀を務めてきた著者のたどりついた結論だ。
本書の第1章では、「シンプルな戦略」とはどのようなものか、エッセンスを提示し、それが求められる理由を述べている。
「シンプルな戦略」は誰にでもわかる簡潔な戦略である。したがって、「その戦略は一言で言えるか」という要素が最も重要である。同時に、なぜその戦略が良いのかという、背景にある理由づけも明快であらねばならない。何をなぜやるのかが明確な戦略は、誰にでも伝わりやすく覚えやすい。このことは組織内の伝言ゲームで意味が歪められるのを防ぎ、組織全体の意思統一に役立つ。
また、その戦略が「戦略の3大基本要件を満たしているか」も重要である。「3大基本要件」とは、①顧客の利益になるか、②他社との違いがあるか、③儲かるか、である。顧客に価値を、それも独自の価値を提供し、その上で収益を生み出すものこそが戦略なのだ。そのためには、この3つの問いに対する答えを見つけた際に、その根拠をそれぞれ3つ以上あげられるようにして、3×3で9つのリストができるのが理想だ。
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実際にシンプルな戦略を採っている企業はある。その例がファーストリテイリング(ユニクロ)である。ユニクロの戦略は、「独自の付加価値を持った目玉となる戦略商品をとにかく徹底的に最大限売る」ことだと言えるだろう。例えば、フリースやヒートテックなどの商品は、機能性が高くかつ低価格であり、顧客にとって価値が高い。さらに、圧倒的販売量を背景に、高品質・高機能・大量安定調達・ローコストを達成しており、他社には到底真似ができない。そして、大量の販売は自社の利益にも大きく貢献している。戦略の3大基本要件を満たし、なおかつ、戦略としても明快である。日本企業の戦略では、3大基本要件が揃っていないものが多い。例えば企業の、デジタル化を受けての対策を見るとそれが顕著である。ただネット上でも情報提供をするだけといった場合がしばしばあり、デジタル化によって顧客のニーズにどのような変化が生まれ、それにはいかに対応すべきなのかという要素がないのだ。
さらに、実現性と持続性が欠けている場合も多い。百貨店のバーゲンセールの前倒しなどがその例である。これは結局正規価格で販売できる期間を短くするだけであり、結果的には収益を圧迫するという事態を招いている。
また、シェア拡大といった目標のみを掲げるパターンや、すべての事業分野で大きな成長を目指すといったパターンも多い。これらはそもそも戦略とは言えない。
こうした状況にあると、その企業本来の力を発揮することは難しい。適切な戦略を持たないことにより、優れた理念や技術や人材をもつ一流企業でさえ、赤字を抱えてしまうことがある。
厳しい経営環境の中では、シンプルな戦略こそが現状打破のために必要になってくる。市場が縮小しつつある中では、現状維持は事業の先細りを意味するため、現状を超える何かしらの「ニュー」が求められる。改良、改善とは違うレベルの「ニュー」な何かを用いて新たなパラダイムへ転換しなければならないのだ。シンプルな戦略はそのための突破口となり得る。シンプルな戦略は焦点が明確であり、多くの人で共有しやすいため、力を一か所に集めることができるからである。
シンプルな戦略は、ぶれない経営にもつながる。破るべき壁の1点に力を入れ続け、その上で細部への目配りと対応をすることが成功の鍵である。
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