未来に関するいかなる議論も、まず中国を論じないことには始まらない。中国はここ三〇年で飛躍的な経済成長を遂げ、いまやまぎれもない主要国である。だが、成長が三〇年間持続したからといって、この先もずっと成長が続くということにはならない。中国の経済基盤は見かけほど強固ではない。
中国にとっての問題は、政治的な問題である。中国を一つに結びつけているものは、イデオロギーではなく、金だ。景気が悪化して資金の流入が止まれば、銀行システムが収縮するだけでなく、中国社会の骨組み全体が揺らぐだろう。中国では、忠誠は金で買うか、強制するものだ。貧困が広く存在し失業が蔓延する国に、景気悪化の圧力が加われば、政情不安が広がる。
深刻な経済危機が現実のものとなった場合、中央政府は共産主義に代わるイデオロギーを見つけなくてはならない。人民が犠牲を払うのは、信奉する対象があればこそだ。そして中国人ならば、共産主義を信奉できなくても、中国国家なら信奉できるはずだ。中国政府は国家主義と、国家主義とは切っても切り離せない外国嫌悪を煽ることで、分裂を食い止めようとするだろう。中国では歴史的に外国人に対する嫌悪感が強い。
中国への経済投資を守ろうとする外国との間に、経済問題をめぐって大きな対立が生じているこの頃は、国家主義に訴えやすい環境にあるはずだ。「偉大なる国、中国」という発想が、失われた共産主義イデオロギーにとって代わるだろう。これが起こる可能性が最も高いのは2010年代だ。対立の相手国としてうってつけなのは、日本とアメリカのいずれか、または両方である。
そんなわけで中国の歩む道筋として、次の三つが考えられる。第一が、いつまでも驚異的なペースで成長し続けるというものだ。だが、かつてこれを成し得た国はないし、中国が例外になるとも思えない。第二が、中国の再集権化である。強力な中央政府が秩序を打ち立て、地方の裁量を狭めることによってこれを抑え込む。このシナリオのほうが実現する可能性が高いが、中央政府の出先機関の役人が集権化と対立する利害を持つため、成功させるのは難しい。第三は、景気悪化がもたらすひずみにより、中国が伝統的な地方の境界線に沿って分裂するうちに、中央政府が弱体化して力を失うというものだ。これは中国ではいつの時代にも実現性の高いシナリオであり、富裕階級と外国資本に利益をもたらすシナリオでもある。これが実現すれば、中国は毛沢東時代以前と同じ状況に陥る。地域間の競争や、紛争さえ起きるなか、中央政府は必死に支配を維持しようとするだろう。中国経済がいつか必ず調整局面に入ること、これが深刻な緊張をもたらすことを踏まえれば、この第三のシナリオが中国の実情と歴史に最も即していると言える。
世界の先進工業諸国は2010年代に人口が減少し始め、人件費の高騰に直面する。これらの国の中には、固定化した価値観のせいで、移民の受け入れが困難な国がある。中でも日本は移民に対する拒否反応が強い。だが日本はそれでも統制のとれた、高齢の労働者を補助する負担に耐え得る労働力の供給源を探さなくてはならない。だが、労働者はほかに選択肢がある場合、まず日本は選ばない。日本は帰化を希望する外国人に非常に冷たいからだ。
しかし、中国は大量の割安な労働力の供給源である。中国人が日本に来ないなら、日本がかつてのように中国に出向くだろう。日本企業の中国拠点が現地の中国人労働力を活用することが、移民に代わる手段になる。またこの手段を選ぶのは日本だけではない。
3,400冊以上の要約が楽しめる