アドラー心理学とは、オーストリア出身の心理学者アルフレッド・アドラー(1870〜1937年)が提唱した理論に基づき、発展してきた心理学体系の1つである。
現代心理学との大きな違いの1つは「アドラー心理学は理学ではなく工学である」という点とされる。例えば、あるトップモデルが「私はブスだ」と悩んでいるとする。どうアドバイスしたら、悩みが解決するだろうか?
一般的には、客観的事実(エビデンス)を彼女に示して「あなたは十分キレイです。悩む必要はありません」と説得しようとするだろう。このように客観性を重視するのが、現代心理学のアプローチである。
一方アドラー心理学では、問題解決に客観的視点を持ち込まない。当事者の主観に寄り添い、「あなたはそう思うんですね」「苦しいんですね」と深く共感しながら、さまざまな理論や技法を用いて解決していく。
実証主義的な現代心理学の多くは「どうして人は悩むのか」という視点をベースにしているのに対し、アドラーは「どうしたら悩みが解決するのか」を基本にしている。アドラーにとって最も重要なことは、客観的な正しさやエビデンスではなく、相手が元気になることだったのだろう。
アドラー心理学とは工学、つまり、幸せになるための「使える」心理学なのである。
アドラーの研究テーマは時代によって異なっていた。前期は「劣等感の補償」、中期は「権力への意志」、後期は「共同体感覚」とに分けられる。
アドラー心理学の中核であり、現代のアドラー心理学の土台となっているのは「共同体感覚」である。この概念を日本に紹介した精神科医・野田俊作先生はこの共同体感覚を「自己受容」、「他者信頼」、「貢献感」の3つの要素で定義した。
自己受容とは、自分を受け入れることである。自分の良い面も欠点も含めてOKを出せることであり、良いところだけを見つける自己承認とは、似て非なるものだ。先述のトップモデルは、自己受容ができていない状態の一例である。客観的な評価にかかわらず「自分の容姿が気に入っている」ことが、自己受容をできている状態だ。
他者信頼とは、まわりの人を信頼できること。他人に任せられず、自分の負担感が増すばかりの経営者などは、他者信頼に欠ける。
そして、貢献感はまわりの人の役に立てているという感覚である。
この3つが高いほど共同体感覚が満たされ、人は幸せを感じる。逆に言えば、心の病やさまざまなトラブルは、この3つが低いことによって生じている。この3要素を高めることにより、多くの問題が解決できるだろう。
著者の前野氏が研究する「幸福学」は、「アドラー心理学」とよく似ているとされる。アドラー心理学の中で、幸福学と最も相関が強いのは自己受容である。幸せな人は自己受容ができている一方、自己受容のできていない人は、不幸せを感じる傾向が強い。
幸福学では、「幸せの4因子」という、人間の幸福を高める4つのポイントがある。以下の4つの因子が偏りなく、すべて高い人が幸せな人と言える。
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