受験のように一律の目標を持つ学生と異なり、大人の学習目的は千差万別だ。では、大人が最短最速で目標を達成するためには、どんな学び方をすればいいか。それは、「自分自身のゴールを達成するために、個別最適化された学習プログラムをデザインする」ことである。個別学習の効果を証明する科学的根拠は2つある。
1つ目の根拠は「ブルームの2シグマ問題」と呼ばれる研究だ。研究者のベンジャミン・ブルームは、学生被験者を3グループに分け、習熟度をテストで測定した。
(1)教室の講義のみの学習方法
(2)教室での講義に加え、習熟度アプローチを取り入れ、前の課題を習得しなければ次の課題へと進まない学習方法
(3)チューターの個別指導で学習する方法
結果、(2)のグループの得点は(1)のグループよりも標準偏差(σ=シグマ)の分だけよくなり、(3)のグループでは成績が(1)のグループに比べて2σよくなっている。つまり、それぞれのグループ間において偏差値で10もの差が生じたのだ。この研究結果から、適切な学び方をすれば生まれ持った能力や置かれた環境にかかわらず、誰もが「できる人」になれるのだとわかる。
もう1つは「キャロルの時間モデル」である。言語学および心理測定学の専門家ジョン・B・キャロルは、「学習率(学習達成度)=(学習可能時間×根気強さ)÷(必要学習時間×指導の質×理解能力)」という式を提唱した。
ここで注目すべきなのは、必要学習時間と学習可能時間の2点だ。日本では、「学習できるかできないか」は本人の理解力や根気強さで決まると考えられている。だが、それだけでは重大なことを見落としてしまう。本人や指導者の資質だけにとらわれず、「必要学習時間」を把握し、スケジュールの中でどうすれば100%の「学習可能時間」を配分できるかを考えるプランニングが重要だ。
本書では、個別最適化された学習プログラムを作るために「インストラクショナル・デザイン」を提唱する。この手法は、「学習目標」「学習内容」「評価」の3つの基本要素を相互補完的に組み合わせ、このサイクルを回しながら改善していく構造だ。要するに「ビジネスにおけるPDCA」と同じである。ビジネスではPDCAの実践が常識になっているにもかかわらず、学習ではその観点が抜け落ちてしまい、非効率な学習に苦しむ人が多い。学習も仕事と同様に、計画を実行するためのデザイン、つまり「学び方のプロジェクト・マネジメント」が重要となる。
インストラクショナル・デザインに基づく学びのプロジェクト・マネジメントは、次の「7つのステップ」で構成される。
ステップ1:人生計画を立てる
学習計画の前提となる人生計画を決めていく。自分が何を成し遂げたいのかを明確にし、自分が将来達成したいゴールから逆算して「登る山」を決めよう。
ステップ2:学習目標をクリアにする
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