速読とスローリーディングそれぞれに価値がある。伊藤氏は大学時代、文芸評論家の加藤周一氏が書いた『読書術』という本に倣い、「一日一冊読む」ことを3ヶ月続けた。すると、速読力アップと、読書習慣の定着という効果が得られた。また、速く読もうとすれば、その分意識を集中させることができ、かえって内容もしっかり頭に入るのだという。
一方で、専門書や古典については徹底的にゆっくり読んだ方がよい。伊藤氏は、若手研究者時代に論文や書籍を読み続けることで、「何度も読むうちに、難解だった内容が頭にしみ込んでいく」という経験をした。感受性の鋭い若い時でしか読めないような難しい本や深い内容の本は、スローリーディングすることを薦めたい。「何度も繰り返し読める本」と向き合う醍醐味を味わえるはずだ。
著名な国際経済学者キンドルバーガー教授に、経済史の大作を出し続けることができた秘訣を聞いた。すると、こんな答えが返ってきた。「本を読みながら、重要箇所にアンダーラインを引き、気づきや疑問を欄外にメモする。その後、アンダーラインをした内容やメモをタイプしていく。ある程度メモが増えたら、メモにアンダーラインを引いて読み、更に気づきや疑問をメモするという作業を続けると相当量の『メモのメモのメモ』ができ、1冊の本を書く準備ができる。」メモの積み重ねが、持続的に成果を出すコツだったと言える。
自分の言葉でメモを書いた方が、その本の内容についてより深く考えるきっかけになるし、その箇所の内容を一言のキーワードで記すのは、思考を整理するだけでなく、他人にメッセージを伝える上でも非常に有効だ。
新聞やウェブの連載原稿を書くというアウトプットこそ、実は最良のインプットである。
毎号のテーマと、そのキーワードを考え抜き、事実を調べる。書きたいテーマの背景にある論点を一つ選び出し、決まったら、「一番強調したいところ」だけを一気に書き出す。これを繰り返していると講演や講義でも自然に話ができるようになっていく。執筆は、自分の頭を整理し今後の思考につなげる最高の手段である。締切があり、人の目にふれるという緊張感のもと継続して良質な原稿を生み出さなくてはいけないというプレッシャーに後押しされ、書き上げた内容が自身の血肉になっていく。
大学の授業でも一般向けの講義でも、聴衆の反応を見ながら話し方を変えている。準備された原稿を読み上げるより、聴衆の反応に応じて「自分の言葉」で話すほうがよほど説得力があるからだ。
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