アナウンサーである著者は、番組進行のアシスタントの仕事を任される機会が多い。この仕事のおもしろさは、番組の目指す雰囲気やメインMCによって、求められる対応が変わってくることだ。たとえば東野幸治さんは、知識豊富で、アシスタント不要といってもいいほどの方である。だから著者は「私が番組のためにできることってなんだろう」と常に考えている。
アシスタントとして大切にしていることは、MCの方をよく観察することだ。あるとき著者は、収録中、東野さんが身体を少しだけ著者の方に傾ける瞬間があることに気づいた。さらに観察を続けてわかったのは、東野さんが、ゲストにひととおり話を聞いたときにそのしぐさをしていることだった。そこで著者は“切り替えポイントになる時間”をつくるため、東野さんが身体を傾けたその瞬間、少し角度の違う質問をしたり、自分なりのコメントをしたりするようにした。
自分が何を求められているのか、どう対応するのがベストなのか。判断がつかないときは、人や現場をよく観察してみよう。きっと見えてくるものがあるはずだ。
アナウンサーは、先輩アナウンサーの後任として番組を担当することもある。先輩の仕事を引き継ぐのは、少なくはないプレッシャーを感じるものだ。著者はそんなとき、最初から個性を出そうとしたり、自分のやり方で進めようとしたりするのではなく、前任者を完全にコピーすることを目指す。
完成されたチームに新しいメンバーが入るのだから、既存メンバーも大変だろう。自分がどれだけ努力しても、必ず違和感が生じるものだ。もし加入後すぐに「うまくいっているなあ」と感じられたら、それは自分がすごいのではなく、まわりが気を遣って合わせてくれているからだ。新しい環境で余裕がなくとも、そのことを決して忘れてはならない。
著者は『情報ライブ ミヤネ屋』でアシスタントMCを引き継ぐ際、前任の森若佐紀子アナウンサーに2週間べったり張りついた。スタジオを見学し、立ち位置からフリップを出すタイミングまで、森若アナウンサーの動きを事細かにメモする。打ち合わせや着替えのタイミングなど、本番までの時間の使い方も聞き取った。そして帰宅後は録画を見返して、どんな風に映っているかを確認した。
著者が読売テレビを退社するときは、後任に引き継ぐ立場になった。そこでわかったのは、聞かれる立場からすると、根掘り葉掘り質問してくれた方が安心できるということだ。誰かから仕事を引き継ぐときは、躊躇せず徹底的にヒアリングしよう。
新人アナウンサー時代、初めて一人でロケに行くときのこと。著者は教育担当だった森たけしアナウンサーに「明日のロケの準備、できている?」と聞かれた。取材相手への想定質問として準備していたものを20個ほど見せると、森アナウンサーはあきれた顔で「これだけの質問でロケに行こうとしているの?」「思いつく限りの質問を書き出してみて。最低100個!」と言った。著者は「そんなに考えていっても、ほとんど使わないのに」と少しの反発心を抱きながら、必死で準備をした。
しかし実際にやってみると、森アナウンサーが100個と言った意味が理解できた。
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