われわれが現在暮らしている成熟した社会では、良いものを作ったからといって、それが必ずしも売れるわけではない。
提供する製品を欲しがっている人は誰なのか、その人はその製品からどのような価値を得ているのか、ものを売るためにはそれらを知ることが大切だ。「作った製品を売るのではなく、売れる製品を作る」。マーケティング発想(=消費者志向)の経営とは、そこから始まる。
消費者のニーズを知るといっても、経営者は近視眼的な理解に陥らないように注意を払うべきである。自分自身が何の事業をやっているのかと考えるとき、製品そのものでなく、その製品が果たす機能や、消費者がその製品によって解決しようとしている目的を考えなければいけない。たとえば、鉄道会社の事業は輸送であり、映画製作会社の事業は娯楽提供という風に。
また、製品の価値と性能は別物であることも忘れてはならない。消費者が欲しているのは、あくまで価値(=その製品に対して本当に期待すること)の方だ。ハーレーダビッドソンが小さくて軽くなって性能が高まったとしても、ハーレーファンは「それはハーレーではない」と言うに違いない。
20世紀初頭、企業にとって製品を作ると同時に、それをいかに売るのかが重要な問題となった。企業が巨大化し、多く製品が作れるようになったぶん、それに見合う顧客を獲得せねばならなくなったが、従来からの手法では対応できず、新しい対応が模索されたのだ。
マーケティングとは、「市場で売る」を意味する「Market」という動詞を、動名詞化した言葉だそうだ。市場のニーズに適応したり、市場に働きかけたりと、売買を含めて市場とのやり取り――コミュニケーションをすること、そしてそのために必要な仕組みをつくることが、マーケティングの扱う世界である。
マーケティング論の中核をなすのは、「マーケティング・マネジメント論」と呼ばれるものだ。基本的な考え方は、1つの製品を売るとき、製品、価格、プロモーション、流通の面からやるべきことを整理し、それらを統一的に組み合わせていくというものである。そのほかに、情報収集のための市場調査の方法について研究がなされている「マーケティング・リサーチ論」、流通の姿や流通業者の行動原理などを論じる「流通(システム)論」などがある。また、マーケティング・マネジメント論において、現代では「サプライチェーン」「営業」「ブランド」なども新しいテーマとして考える必要がある。実際には、これらすべては関連しあっており、1つの目標に向かう方向性のもとに、統合的に考えて戦略として策定する必要がある。
消費者志向といえども、消費者は一様ではない。まず、マーケティング活動のスタートとして、自社はどのセグメントをターゲットとするのかということを設定することが必要になる。セグメントが異なればそれぞれの消費者群に対して有効なマーケティング活動も違ってくるのだ。
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